新型コロナウイルスの感染拡大により、医療機関は院内感染を防止するためのさまざまな対策を講じている。中でも需要が高まっているのは、感染防止効果に加えスタッフの負担軽減につながる、プロの清掃業者による院内クリーニングだ。連載第27回は、2015年の開業時から医療機関に特化したクリーニングサービスを活用し、現在も清潔感ある院内環境をキープするクリニックの事例を紹介する。
新型コロナウイルスの感染拡大は国民の行動様式に大きな変化をもたらした。感染への不安から、医療機関の受診を控える傾向が強まっており、国民の健康状態への影響が懸念されるとともに、多くの医療機関が患者減に悩まされる状態が続いている。日医総研が2020年7月に実施した「第7回 ⽇本の医療に関する意識調査」では、「医療機関の受診が不安」と回答した割合が69.3%に上っている。
こうした状況を受け、各医療機関では換気や待合室の座席間の確保、受付のパーテーション設置、ドアノブや椅子の消毒・除菌などの対策を講じている。これらの感染対策に加え、患者が安心して来院するために欠かせないのが、清潔な院内環境だ。コロナ禍で院内環境への意識が高まり、専門の清掃業者にクリーニングを依頼するクリニックが増えている。
JR中央線東小金井駅から徒歩2分の医療モールにある「いせだ脳神経外科」は2015年に開業。院長の伊勢田努力さんは日本脳神経外科学会専門医、米国の神経内科専門医の資格を持ち、脳神経外科と神経内科の双方の領域をカバーできるクリニックだ。1.5TのMRIやマルチスライスCTなど充実した検査機器を揃え、患者は受診当日にMRI検査が可能。治療の方向性をタイムリーに患者へ提示する診療スタイルが評判を呼び、中央線沿線から患者が集まる。
同院は「クリニックの清潔感は患者さんの満足度に大きく影響する」という伊勢田さんの考えから、開業間もなく清掃業者のクリーニングサービスを導入。開業から5年を経過した現在でも清潔感ある明るい院内を保っている(写真①~④)。
「脳神経外科領域は大病院の外来が中心で、初診から診断、治療の選択肢を提示するまでに時間がかかります。このシステム的なdelayを解消したいという思いで開業しました。当院では頭痛が気になる患者さんや脳卒中の患者さんのフォローが多く、気軽かつ継続的に来院してもらうため、患者さんが心地よく過ごせる空間づくりに力を入れています」(伊勢田さん)
同院のクリーニングサービスを担当するのは、東京・府中市にあるエン・コーポレーション(https://www.en-corporation.jp/clinic/)。清掃ニーズの高い歯科クリニックの顧客を多く抱え、クリニック向けクリーニングのノウハウが豊富な清掃業者で1都3県に対応している。同社のクリーニングサービスの最大の特徴は、“顔の見える関係性”を重視し、アルバイト作業員ではなく一定のスキルを持つプロの担当者が清掃を実施する点。また顧客と清掃作業担当者をつなぐ独自ツール(図)を活用し、毎回担当者が目を通してから清掃を実施する。土日や祝日、早朝、深夜にも柔軟に対応するなど、小規模事業者ならではのきめ細やかなサービスを提供。大手清掃会社との提携も開始し、ニーズの急増にも同社と同じ内容のクリーニングサービスを提供できる体制を整えている。同院では月曜日と木曜日の週2回、クリーニングを実施している。
伊勢田さんは同社を選んだ理由についてこう語る。
「開業からしばらくお願いしていた清掃業者さんは、ワックスの塗り替えが頻繁でコスト面に不満を感じていました。そこで事務長の妻が他の会社を探すようになりました。決め手となったのは電話対応です。“大手”にも問い合わせてみましたが、エン・コーポレーションさんの対応は群を抜いて丁寧かつ誠実でした。トライアル清掃で仕上がりの良さに驚き、コスト面でも納得のいく提案を受けたので、お願いしました」
伊勢田さんはクリーニングサービスを導入したメリットとして患者の満足度向上につながったことに加え、スタッフのモチベーションアップとコミュニケーションがスムーズになった点を挙げる。
「当院は小さいクリニックですがセクションが明確に分かれ、私と看護師、放射線技師、臨床検査技師、受付が別の場所にいます。電子カルテを使えば直接会話をしなくても業務が遂行できるようになっています。それにより作業効率は上がりますが、一方でスタッフ間のコミュニケーションは希薄化しかねません。当番制にして別セクションのスタッフが一緒に清掃することで、業務中とは違う会話などもできるようになり、コミュニケーションが活発になりました。またエン・コーポレーションさんにきれいにしてもらうと、『この状態をキープしよう』というモチベーションがわいてきて、クリニックに対する愛着にもつながると思います。地域のクリニックとして、こうした一体感を大切にしていきたいと考えています」