株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「老年症候群と漢方医学」小川純人

No.5063 (2021年05月08日発行) P.98

小川純人 (東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)

登録日: 2021-03-24

最終更新日: 2021-03-24

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

高齢者では加齢に伴う身体・生理機能の変化を認めやすく、多彩な症候や愁訴を呈しやすい。そのため、残存機能の維持や社会復帰を含め、健康寿命延伸を目指した全人的・包括的な医療やケアが必要となる場合が少なくない。こうした高齢者に特有な症状は複数の原因から生じていることも多く、そこでは原因究明や診断・治療にとどまらず、ADLやQOLの維持、向上という観点から集学的アプローチが重要になる。このように、老年期に多い臨床徴候であって、加齢に伴う種々の要因によって生じる一連の症候は老年症候群として理解されている。老年症候群には、フレイル、転倒、尿失禁、認知機能障害、誤嚥など様々なものが含まれるが、老年症候群の捉え方は臓器別・疾患別の分類とは異なるものであり、症状自体に対する対症療法的アプローチや対処法が効果的である場合も少なくない。

漢方医学においては、加齢に伴う心身の変化のうち、腎虚に代表される虚証の症状・特徴が老年症候群の中でも特にフレイルの症状と関連すると考えられている。実際、虚証に対して、補剤や補腎剤をはじめとする漢方薬が広く用いられてきており、2017年にまとめられた「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会提言書」においても、フレイルに対応する医療における漢方製剤等の必要性が挙げられている。その背景として、フレイルの様々な要素(身体的側面、精神心理的側面、社会的側面)に対する漢方薬のエビデンスが集積してきている点、保険医療上の医療費削減が期待できる点などが挙げられており、高齢者医療における抑肝散、牛車腎気丸、補中益気湯、人参養栄湯、酸棗仁湯、六君子湯などの効果や可能性についても指摘されている。

今後、フレイルをはじめとする老年症候群や認知症などに対して、西洋薬のみで医療ニーズを満たすことが難しい場合の漢方薬の活用・併用による効果、さらには運動や栄養をはじめとする非薬物療法と漢方薬との併用効果について知見が集まるものと期待される。このように、心身のバランスを整えて身体全体をよい状態にしていくのが漢方治療の特徴の一つであり、漢方薬の効果や副作用についても、本人の自覚のみならず家族や周囲の観察・見守りが今後一層大切になってくる。

小川純人(東京大学大学院医学系研究科老年病学准教授)[老年医学]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top