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【識者の眼】「補完代替療法を『インチキ』『トンデモ』と呼ぶことの功罪」大野 智

No.5059 (2021年04月10日発行) P.65

大野 智 (島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)

登録日: 2021-03-29

最終更新日: 2021-03-29

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「インチキ療法に騙されるな!」「トンデモ療法に近づくな!」

このような医療者からの情報発信を目にすることがある。しかし、補完代替療法を十把一絡げに「インチキ」「トンデモ」と名指しで非難することには違和感を感じる。今回、その理由について、あくまで私見になるが述べたいと思う。

恐らく医療者は補完代替療法に対する注意喚起を目的に情報発信しているのであろう。もちろん、それによって補完代替療法の利用を思いとどまりトラブルに巻き込まれずに済んだ患者がいるかも知れない。しかし「補完代替療法=怪しい・危険」という認識が広まると、患者は医療者に相談することもできず、黙って利用してしまい、問題が水面下に隠れ、より深刻な状況に陥ってしまうことに繋がりかねない。これを「患者の自己責任」としてしまうのは、医療者として無責任な態度ではないだろうか。

「インチキ」「トンデモ」という言葉を使わなくても、補完代替療法と対立する形で、西洋医学の科学的な正しさを伝えることの限界にも触れておきたい。例えば、受験生が学業成就の御守を大切そうに持っているのを見て「受験に合格するためには、勉強することが重要。御守を買って合格できるなら、受験生は全員合格できる」と正論を説いたとして、果たして受験生は耳を傾けてくれるだろうか? 誰が何に頼るのかは、あくまで相対的な問題であり、極論かもしれないが、溺れる者にとっては藁ですら頼り甲斐があるかもしれない。なお、患者や家族が補完代替療法に最も期待していることは「精神的な希望」である(No.5036参照)。読者の皆さんの中にも、心の拠り所にしているものが何かあったりしないだろうか。それを第三者から頭ごなしに「インチキ」「トンデモ」と否定的な言葉を投げつけられたら、どう感じるか、想像に難くない。ここであるべき姿は、まずは医療者が患者から「精神的な希望」も含め頼られる存在になるということであろう。

大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法⑯]

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