妊娠に合併する感染症は,児に影響するTORCH症候群や肝炎ウイルス・HIV・B群溶連菌など多岐にわたるが,本稿ではcommon diseaseであるかぜ症候群と,それと鑑別すべき上気道症状を認める疾患について述べる。
基本は,かぜ症候群の診断は非妊婦と変わらないが,妊婦において重症化しやすいインフルエンザと,非常に稀であるがインフルエンザと症状は類似しつつも見逃すと母児ともに重篤な状態に陥る劇症型A群溶連菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)を除外することが大事である。
かぜ症候群は,鼻症状(鼻汁,鼻閉感,くしゃみ)や咽頭症状(咳嗽,咽頭痛)など上気道症状が主体で,微熱や頭痛,倦怠感などを伴う。高熱の持続(3日以上)や膿性の喀痰,白苔の付着,中耳炎・副鼻腔炎症状を認める場合は細菌による二次感染も疑う。インフルエンザにおいても38℃以上の発熱を認めることが多く,筋肉痛・関節痛・重い倦怠感などは,インフルエンザに比較的特異的な症状である。
STSSは上記インフルエンザ様症状に続いて,下痢や嘔吐などの消化器症状や子宮の疼痛や出血を伴うこともある1)。
インフルエンザを疑う場合は,迅速キットを用いて診断する。発症直後は粘膜のウイルス量が少なく,偽陰性となる可能性に留意する。また,STSSは稀な疾患であるが見逃してはいけないため,溶連菌迅速検査を同時にすることに躊躇しないでほしい。胸部X線や胸部CTによる被ばく線量は胎児に影響の出る量ではないため2),細菌による二次感染の評価を目的に施行することを考慮してもよい。
自覚症状や検査所見とともに,身体所見や流行時期,必要があれば採血検査や胎児心拍陣痛図などの情報から総合的に判断する。
かぜ症候群の場合は,本人が苦痛としている症状への対症療法が主となる。また,妊婦の場合は投薬への抵抗を示すことも多いが,漢方薬は抵抗感が低く選択肢のひとつとしてもよい。
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