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[緊急寄稿]COVID-19変異ウイルスの流行とその対策(菅谷憲夫)

No.5063 (2021年05月08日発行) P.82

菅谷憲夫 (神奈川県警友会けいゆう病院小児科,慶應義塾大学医学部客員教授,WHO重症インフルエンザガイドライン委員)

登録日: 2021-04-20

最終更新日: 2021-04-20

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世界各国では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)変異ウイルスの蔓延により,患者数が激増している。一方,COVID-19ワクチン接種も本格化して,ワクチンと変異ウイルスとのレース(競争)となっている。日本も同様に,N501Y変異を有する英国型変異ウイルス(B.1.1.7)の流行が大阪を中心に全国に広がりつつあるが,日本ではワクチンが大幅に不足するという深刻な事態となっている。日本政府のワクチン確保の失敗は明らかであり,その責任は極めて大きい。このままでは,ワクチン不足が原因となって,多数の日本人の生命が失われることが危惧される。

1. 英国型変異ウイルスは感染力が高い

大阪など関西圏で本格的に流行が始まった英国型変異ウイルスは,感染力の強いことが証明されている1)。一人の患者が何人に感染させるかを示す実効再生産数は,1.5前後とされる。英国型変異ウイルス感染患者の鼻咽頭のウイルス量が,変異のないウイルス感染患者と比べて大量に増加していることが,感染力の強い原因となっている。ウイルス量の増加により,疾患の重症度と死亡率が高まるという報告もあり,警戒が必要である。いずれにしろ,実効再生産数が1.5前後であるので,変異ウイルス流行に対して,今まで通りの対策では感染は拡大し,流行を止めることはできない。

2. COVID-19ワクチンと変異ウイルス

変異ウイルス流行で,ワクチンの効果低下が懸念されるが,実際,どの程度の効果があるかについては,臨床的なデータはない。従来型のウイルスで,95%の発症予防効果が報告されたファイザー社のワクチン(BNT162b2)は,in vitroでは,英国型変異ウイルスに対しても,有効とされている2)。多少,効果が低下する可能性はあるが,変異ウイルスにもワクチンは有効と考えられる。特に,重症化防止,死亡防止効果は十分に期待できる。英国において,アストラゼネカ社とファイザー社のワクチン接種が進み,感染者数,死亡者数が驚異的に低下した事実を見ても,ワクチンが有効なことは明らかである(図1)。

3. 日本もロックダウンが必要となるか

ワクチン接種が進まない中で,変異ウイルスが流行する日本は,今までにない厳しい状況となりつつある。感染拡大を防ぐには,マスク,physical distancing,手指消毒だけでは難しく,欧米諸国で実施されてきた,本格的に「人との接触を減らす」手段,つまりロックダウン実施も必要となるかもしれない。ロックダウンとなれば,緊急事態宣言とは異なり,外出制限,飲食店の閉鎖,生活必需品以外の店の閉鎖,映画館やジムの閉鎖,さらには休校などの措置が必要となる。
英国は,英国型変異ウイルス流行に対して,ワクチン接種と数カ月にわたるロックダウンにより,驚異的な成果を挙げた国で,現在,ロックダウンを徐々に解除しつつある。EU諸国,フランスやドイツでは,変異ウイルスの流行が激しく,ロックダウンをした上で,ワクチン接種を進めている。

4. 日本がとるべき対策

(1) 抗原検査を広く実施

日本では,COVID-19流行当初から,PCR検査拡充が叫ばれてきたが,結局,一年経っても十分な検査が行われず,日本は検査・診断では世界に大きな遅れをとってしまった。

変異ウイルス流行下では,患者を早期に発見し隔離することが一段と重要となり,多くの国で,抗原検査が利用されている。抗原検査は,インフルエンザと同じイムノクロマトグラフィー法を用いているが,PCRと比較した感度は,発症早期の有症状患者では70〜90%前後,特異度は95〜100%とされている。感染性のある患者を早期に検出して,感染拡大を防止する目的であれば,十分な感度,性能である3)。逆に,抗原検査で陰性であれば,感染性がないと判断することが可能と思われる。ただし,現在のところ,日本には十分な科学的なデータはない。

日本でも,タウンズなど5社から抗原検査が発売され,大量に供給できる体制は確立している。医療関係者は診療前に体温測定が実施されているが,これからは,体温測定とともに,抗原検査を実施すべきである。日本ではCOVID-19による死亡者が総計1万名に近づいているが,その半数近くが,高齢者施設,病院での院内感染が原因となっているからである。

ドイツでは,小児は登校前,成人では出勤前に,自分で検査をすることが勧奨され,自宅で,鼻腔から検体を採取して自己検査をする方向に進んでいる。

(2)ファビピラビル(アビガン)による早期治療

昨年4月,本誌に「COVID-19流行は日本の緊急事態であり,現状のままPCR検査も実施せずに,抗ウイルス薬治療もしないままであれば,いわゆる医療崩壊が起きて,多くの日本国民が死亡する危機が迫っている。高齢者やハイリスク患者では,ファビピラビルによる治療を早急に解禁すべきである」と書いた4)。ワクチンがなく,変異ウイルス流行に脅かされている日本では,抗ウイルス薬ファビピラビルの重要性は一段と高まっている。

その後も,一流誌に,ファビピラビルの有効性を示唆する報告が発表されており,日本政府の早急な承認が望まれる5)6)。特に,厚生労働省が承認を延期している理由は,治験の方法論であり7),現状のような緊急事態では不適当な判断と考えられる。ファビピラビルは,200万人分の備蓄もされているが,観察研究として実際に使用されたのは,1年間に全国で1万800人分と,備蓄量のおよそ0.5%にとどまっている8)

ファビピラビルは,早期治療でなければ十分な効果が期待できないことが,周知されるべきである。日本感染症学会の「薬物治療の考え方」9)では,「中等症・重症の症例では薬物治療の開始を検討する」とされ,ファビピラビルは,中等症,つまり,酸素が必要な患者に投与するとなっているが,抗ウイルス薬は早期治療が原則であり,この指針は,抗ウイルス薬の常識に反したものである。ファビピラビルの開発者の白木教授は,発症6時間以内の投与開始を推奨している10)

(3)ブデソニド吸入が有効との第2相試験結果

最近,Lancet Respiratory Medicine誌に,喘息コントロールに広く使用されているブデソニド吸入剤(パルミコート)が,COVID-19治療に有効という第2相ランダム化比較試験の結果が報告された11)。本試験では,流行の初期から,喘息やCOPDを基礎疾患に持つCOVID-19患者が少なかったことから,吸入ステロイドのブデソニドが,COVID-19の治療に有効と仮定して,発症7日以内(平均3日)の軽症の成人患者を対象に行われた(平均年齢45歳)。患者は,ブデソニド治療群と通常治療群にランダムに割り当てられた。ブデソニド治療群は,800μgを1日2回吸入した。主要評価項目は,観察期間中に症状が悪化して治療を受けた人数で,通常治療群70名のうち10名(14%),ブデソニド治療群69名のうち1名(1%)が緊急に治療を受けた(p=0.004)。副次評価項目として,ブデソニド治療群では有意に臨床症状回復が早く,体温も低下傾向となった。

このように,ブデソニドは,軽症のCOVID-19患者の早期治療に有効であった。まだ,第2相試験ではあるが,ブデソニドは,日本でも広く処方されている吸入薬であり,これが,COVID-19の治療に有効であれば,その影響は極めて大きい。

5. おわりに

日本は,ワクチン接種率1%の状態で,英国型変異ウイルスの流行にさらされている。今は,できることは全てやることが,国民の命を救うことになる。そのためには,自粛ではなく,ロックダウンも必要になるかもしれない。さらに,世界に遅れを取ってしまった検査・診断は,日本の御家芸ともいえる迅速診断(抗原検査)を広く実施して,日本が開発し200万人分の備蓄のあるファビピラビルによる早期治療を解禁すべきである。

【文献】

1) Frampton D, et al:Lancet Infect Dis. 2021 Apr 12;S1473-3099(21)00170-5. doi:10.1016/S1473-3099 (21)00170-5.

2) Liu Y, et al: N Engl J Med. 2021 Mar 8. doi:10.1056/NEJMc2102017.

3) Kohmer N, et al:J Clin Med. 2021;10(2):328.

4) 菅谷憲夫:日本医事新報. 2020;5006:58.

5) Ivashchenko AA, et al:Clin Infect Dis. 2020;ciaa1176.

6) Doi Y, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2020;64(12):e01897-20.

7) 新型コロナ治療薬としての「アビガン」承認、継続審議に─「有効性を明確に判断できない」. 日本医事新報. 2021; 5046:69. [https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=16220]

8) 「アビガン」200万人分備蓄へ コロナ治療薬承認審査中 厚労省. NHK 2021年3月19日
[https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210319/k10012925081000.html]

9) 日本感染症学会:COVID-19に対する薬物治療の考え方 第7版(2021年2月1日)
[https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/topics/2019ncov/covid19_drug_210201.pdf]

10) 白木公康:SARS-CoV-2治療薬:ファビピラビル. 新型コロナウイルス感染症流行下のインフルエンザ診療ガイド2020-21. 菅谷憲夫, 編. 日本医事新報社, 2020, 146-56.

11) Ramakrishnan S, et al:Lancet Respir Med. 2021 Apr 9;S2213-2600(21)00160-0. doi:10.1016/S2213-2600 (21)00160-0.



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