財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は5月21日、「財政健全化に向けた建議」を取りまとめた。新型コロナウイルスの感染拡大下でも人口減少や高齢化といった構造的課題は待ってくれないと、地域医療構想や医療機能の分化・連携への継続的な取組みの必要性を強調。さらに「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定はなし」とも述べ、かかりつけ医の普及のための包括化推進や、地域差を反映した報酬設定などを通じて、診療報酬でも後押しすることを提案した。
建議は、社会保障制度の持続可能性を確保するためには、保険料や患者負担が低い高齢者の給付が手厚い「受益と負担の不均衡」を是正する改革が急務だと指摘。特に団塊の世代が後期高齢者になり始める2022年度以降、歳出改革の取組みを強化していく必要があると訴えた。
医療提供体制に関しては、病院数・病床数の多さに比べて医療従事者数が少ない医療資源の散在を解消し、効率的で質の高い体制を再構築する観点から、地域医療構想実現に向けたいっそうの取組みを要請。具体策として、▶医療費適正化計画上の必須事項として位置付けることも含め、地域医療構想の法制上の位置付けを強化する、▶地域医療構想調整会議の実効性を高めるための環境整備を行い、地域医療構想のPDCAサイクルを強化する、▶改正感染症法等を参考に平時における医療法の都道府県の責務・都道府県知事の権限の強化を検討する―ことなどを提案した。
外来の医療提供体制では、大病院とかかりつけ医機能を担う中小病院・診療所との機能分化を図るため、紹介状のない患者からの定額負担徴収を義務化する病院のさらなる拡大や、診療所における「かかりつけ医機能」の制度化などの検討を求めた。
また建議は、こうした施策の具現化には、民間医療機関の競争原理に働きかけることができる診療報酬の役割が「舵取り役としてきわめて重要」と主張。22年度診療報酬改定の制度設計では、①DPC/PDPSの見直し、②「かかりつけ医」の普及のための包括化の推進、③地域ごとの実情を反映した仕組みへの見直し―を基本方針に据えるべきだとの見解を示した。このうち、③は、1点単価に地域差を設ける方法や、1点単価は変えずに地域ごとに補正係数を乗じる方法、地域加算の拡大などを具体例として挙げた。
薬剤費の適正化も強く要請した。21年度の中間年薬価改定(毎年薬価改定)は、改定対象品目が全品目の7割程度だったことや、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」の累積加算額の控除が行われなかったことなどから「毎年薬価改定が完全実施されたとまでは言えない」と不満を示し、ルールの見直しを求めた。このほか、▶薬価改定における調整幅の見直し、▶OTC類似薬の保険給付範囲の見直し、▶後発医薬品の使用促進のための診療報酬上のインセンティブのあり方の見直し、▶多剤・重複処方に対する診療報酬での減算措置の拡充、▶リフィル処方箋の導入―なども提言した。
新型コロナ患者の受入れ病院への財政支援策にも言及。災害時の「概算払い」を参考に、前年同月あるいは新型コロナ感染拡大前(前々年同月)の水準の診療報酬を支払う手法の検討を促した。