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院長のビジョンを実現するために専門的なスキルを持った経営アシストサービスを活用[クリニックアップグレード計画 〈経営編〉(28)]

No.5066 (2021年05月29日発行) P.14

登録日: 2021-05-27

最終更新日: 2021-05-27

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現代日本の医療を語る上で欠かせないキーワードの1つが「疾病構造の変化」。急性疾患が減少、地域医療には患者のQOL向上につながるサービスの提供が求められており、行政との連携の重要性も増している。こうしたときに必要となるのは、多忙な業務に追われる院長のビジョンをサポートする人材。連載第28回は、専門的なスキルを持つ外部人材の支援サービスを活用し、領域横断的な活動を展開する小児クリニックの事例を紹介する。

外房こどもクリニックは、千葉県いすみ市で小児のプライマリケアを行うクリニックだ。黒木春郎院長は千葉大を卒業後、文部教官を経て2005年に開業、小児漢方の著作もあるなど全人的な小児医療を提供している。さらに同院では地域の福祉や教育と連携しながら発達相談など子育ての悩み全般に対応。黒木さんは地域における小児医療のあり方についてこう語る。

「2005年に開業したころと比べると、小児医療の様相は明確に変化しています。急性疾患が減少する一方で神経発達症などが増加しており、当院のようにプライマリケアを行うクリニックでは、地域のニーズの変化をとらえて、従来の医療の枠にとらわれずに応えていくことが大切になります。例えば地域の障がい者通所施設や児童養護施設、乳児院といった福祉との連携をして、それらの施設の子どもたちはどのような生活を送っているのか、職員はどのようなメンタリティで接しているのか、付き合いながら地域に必要な小児医療のあり方を常に考えています」

 

発達支援などで教育現場と連携

黒木さんは教育現場との連携も積極的に行っている。例えば学校において大きな課題となっている発達支援を巡っては、教師や地域住民、患者と福祉関係者を交えた講演会を開催。当事者が参加するディスカッションなどを行い、関係者間で理解を深めてきた。講演会には毎年300人以上が参加している。いすみ市教育委員会は2013年に文科省の指定研究「発達障害に関する教職員の専門性向上事業」を実施し、黒木さんも助言者として参加。こうした関係性を構築していく中で教師や生徒の保護者から学級崩壊や学習障害などの相談が増え、同院の臨床心理士がメンタルケアや対応の仕方などをアドバイスするなど領域横断的な活動を行っている。

ハンズオンでクリニックの課題解決に当たる

黒木さんはオンライン診療のトップランナーとしての顔も持つ。18年に日本オンライン診療研究会を設立し、19年には発展的に日本遠隔医療学会オンライン診療分科会に合流、同分科会の会長を務める。コロナ禍でニーズが高まっているオンライン診療の正しい理解の促進と普及に向けて講演も多数行う。

日医総研の調査結果()によれば、開業医の1週間の平均活動時間は55.3時間。開業医の業務は診療に加え、地域医療活動や自己研修、管理者としての業務など多岐にわたり、診療以外の活動に約4分の1の12.7時間を割いている実態がある。

多忙な日々を送る中で黒木さんは、学会や主催する勉強会の運営のサポート、アイデア出しなどについて相談できる相手がほしいと考えるようになり、知人の開業医から院長の右腕的存在の経営参謀となるIQVIAサービシーズ ジャパン(www.iqvia.co.jp)の「経営アシストサービス」を紹介され、2019年10月から導入した。

同社の経営アシストサービスは、クリニック運営で重要な①経営戦略、②マーケティング、③地域連携、④人事・総務―の4つの分野において、MRや医療経営士の資格を持つ“アシスタント”がクリニックの課題解決に当たる。特徴は、一般的な医療経営コンサルタントと異なり、“ハンズオン”タイプのサービスである点。新型コロナウイルスの感染拡大で現在はWebミーティングのケースが増えたが、以前は月に5回、東京から約1時間半をかけてIQVIAサービシーズ ジャパンのアシスタントが同院を訪問し黒木さんのサポートを行っていた。

 

言いたいことが言い合える相談相手

同院がサポートを受けているのは、主に①主催する研究会の資料作成や運営、②新規事業展開のコンサルティング、③効率的な院内オペレーションの構築―の3点。研究会の運営ではスライド作成や論文の翻訳、事務局運営、Web環境の整備などを行っている。

新規事業展開のコンサルティングでは、例えば「神経発達症の治療に力を入れていこう」となった場合、現行の保険診療で請求可能な範囲や医療収益などの調査や確認、実施した場合のシミュレーションを行い、経営判断に必要な情報を提供している。

効率的な院内オペレーションの構築に当たっては、院内の業務フローを分析した上で、職員の仕事の適正な割り振りや合理的でない作業の解消に加え、接遇の研修を実施するなど、黒木さんの理念や診療方針に基づいたクリニック運営が可能になるマネジメントを行っている。

黒木さんは経営アシストサービスを導入したメリットの1つに「院長と同じ目線で話すことができる相手がいること」を挙げる。医師は開業すると、周囲に同僚がいる勤務医時代とは異なり、職場で相談できる相手が極端に減ってしまうケースが多い。

「IQVIAさんに期待しているのは『新しい発想』です。疾病構造に加え、コロナ禍をきっかけに患者さんの受療行動も大きく変化しています。大切なのは変化に合わせるだけでなく、医療機関が先読みしてニーズを生み出していくこと。そのためには自由なブレストが必要になります。専門的なスキルがあって、言いたいことを言い合える相談相手が身近に存在することは、これからのクリニックの院長にとって非常に大切だと感じています」

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