顔面痛の代表的な疾患である三叉神経痛は,一側性(稀に両側性)の顔面の発作性疼痛である。痛み発作は持続時間は短いものの「焼け火箸を突っ込まれたような痛み」と表現されるような激烈な痛みを生じる疾患であり,日常生活への影響も大きい。三叉神経の病変または疾患による疼痛は,国際頭痛学会による「国際頭痛分類第3版」1)では,①三叉神経痛,②有痛性三叉神経ニューロパチーに分類される。①の三叉神経痛は,典型的三叉神経痛,二次性三叉神経痛と特発性三叉神経痛に分類される。脳腫瘍や多発性硬化症など器質的疾患によって生じる三叉神経痛は,二次性三叉神経痛に分類される。典型的三叉神経痛は,三叉神経起始部のjunction zoneに対する周囲血管による機械的圧迫によって生じる。そのため,MRIまたは手術中に三叉神経根の形態学的変化を伴う神経血管圧迫所見が存在するのが典型的三叉神経痛であり,神経血管圧迫所見を伴わないのが特発性三叉神経痛である。
三叉神経痛の疼痛の特徴は,突然顔面に生じる,えぐられるような,突き刺さるような耐えがたい痛みである。疼痛の持続時間は短く,痛みの極期は数秒~数十秒の発作性の激痛であり発作間欠期がある。疼痛部位は三叉神経知覚領域,特に第2枝や第3枝領域に限局して生じることが多い。75~80%に口唇周囲や鼻翼などに触れると疼痛発作が誘発される疼痛発作誘発領域(trigger zone)が存在する。「顔を洗う」「歯を磨く」「髭を剃る」「食事をする」などの日常動作で容易に疼痛発作が誘発されるため,患者の多くはその部位に触れないように注意して生活することになる。発作間欠期には三叉神経領域に他覚的な感覚障害を認めないが,持続的な感覚障害や他の神経学的異常を認める場合には,器質的疾患による二次性三叉神経痛の可能性が示唆され,典型的三叉神経痛や特発性三叉神経痛との鑑別に有用である2)。
三叉神経痛の診断は,詳細な病歴聴取に基づく特徴的な臨床症候をとらえることによってなされる。二次性三叉神経痛を鑑別するために,MRIなどの画像診断が必須である。典型的三叉神経痛の場合は,発作間欠期には明らかな神経学的異常をきたさない場合が多い。治療的診断として,通常の消炎鎮痛薬は三叉神経痛に特徴的な電撃痛には無効なことが多く,第一選択薬として推奨されているカルバマゼピンが有効な場合は,三叉神経痛である可能性が高くなる3)。
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