日本では「受胎から新生児期(生後4週間)までの間に生じた脳の非進行性病変に基づく永続的な,しかし変化しうる運動及び姿勢の異常」という1968年の厚生省脳性麻痺研究班会議の定義が広く使われている。発達の過程で脳が可塑性を持つ時期に,様々な要因で上位中枢が器質的障害を受けた結果起こる非進行性の疾患群と考えられている。運動障害の質と四肢の分布を組み合わせた分類が使われているが,純粋な病型を呈する例は珍しく,痙縮の要素を含む例が多い。
脳損傷の原因として感染,低酸素,脳血管障害,核黄疸,脳奇形,遺伝子異常など様々なものが挙げられ,原因不明のものもある。胎生期から新生児期にかけての病歴の聴取と諸検査で,他の疾患を除外することが重要である。頭部MRIによる評価が参考になる。
痙縮は,運動機能の阻害のみならず関節の変形拘縮,脱臼,側弯などの骨格変形,骨格変形に伴う消化器や呼吸器の二次的内臓障害,疼痛,睡眠障害など日常生活の質の低下,姿勢保持,移動,衛生管理など介護者の負担増加など様々な問題を引き起こす。脳性麻痺の管理では,重症度によらず痙性のコントロールが重要な課題となる。まず痙性を軽減し,その後に機能の改善を図ることが必要である。
これまで経口筋弛緩薬内服治療,理学療法,装具療法,末梢神経ブロック,整形外科手術などが行われてきたが,効果は十分ではなかった。従来の治療法に加えて,現在はバクロフェン持続髄注療法(ITB),ボツリヌス毒素筋注療法(BTX-A),機能的脊髄後根切除術(FPR)といった新しい治療法が導入されて成果を上げている。治療法選択の幅が広がったが,現状では,これら新しい治療を受けられる医療機関が限られているほか,年齢や症状に応じた治療法の選択について共通の認識が得られていない。
いずれにしても,1つの治療法で完結することは難しく,子どもの成長と生活の状況に応じ,日常生活活動の改善や生活の質の向上をめざして治療法を選択・併用しながら,対応していくことが求められる。
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