ブルセラ症はBrucellaによる人獣共通感染症で,その実態は繰り返す菌血症と,免疫反応による関節炎,結節性紅斑など,感染性心内膜炎などの合併症で構成される亜急性の疾患である。地中海沿岸地域に多発し,古くギリシア時代から,マルタ熱,地中海熱,キプロス熱,波状熱などの呼び名で,風土病として認識されてきた。現在も世界で年間50万人ほどの患者が発生している。主に菌に汚染された乳製品の摂食で起こる。感染症法4類感染症に指定されている。Brucella属菌には,現在までに主な感染動物由来別に12種が記載されているが,遺伝的にはすべて同じ菌種と考えられている。ヒトに感染するのはB. melitensisが最も多く,ついでB. abortus,B. suis, B. canisで,この4菌種がほとんどである。
発生地域は地中海沿岸,アラビア半島,インド,メキシコ,南米など,世界各地に及ぶが,特に地中海沿岸地域が多いため,渡航歴の聴取が一番のポイントである。潜伏期は2~4週間であるが,日本のような国内発症が稀な国ではしばしば見逃され,不明熱として経過が長くなったケースもある。2019年の入管法改正,2021年に延期されたオリンピック・パラリンピック開催などで,汚染地域からの外国人労働者やインバウンド旅行者が増えると,患者の増加も懸念される。
症状,所見としては発熱,倦怠感,関節痛に関節炎,リンパ節腫脹,肝脾腫,結節性紅斑などの皮膚症状,中枢神経症状などがみられる。合併症として,関節炎,椎体炎,副睾丸炎,中枢神経感染,感染性心内膜炎などが知られており,特に心内膜炎は死亡の主因となっているため注意が必要で,再発率は4%に上る。
胎盤感染を起こすため,妊婦感染では流産・死産の原因となる。感染ルートは主に経口感染で,生肉での感染は低いとされる。家畜の屠殺や獣医師の診察などでの飛沫感染もあるので,喫食歴,動物との接触歴が重要である。生物兵器として使用されることが危惧される菌種リストに入っている。微生物検査室での感染事故も報告されており,微生物検査技師は感染リスクの高い職種である。患者から患者へのヒト-ヒト感染は稀であるが,母乳感染,経胎盤感染,移植感染などが報告されている。
血液培養と血清抗体が診断の中心であるが,増殖速度が遅いため,血液培養では培養期間延長と陽性シグナルが出なくても,培養期間中のsubcultureの実施は必須である。Brucellaは非常に小さなグラム陰性桿菌(一見すると球菌のように見える)なので,特徴的な血液培養所見(fine sand appearance)をみたときに,Brucellaを想定することが重要である。
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