バンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin resistant enterococci:VRE)は,腸球菌のうちバンコマイシン(VCM)に対して耐性化した菌を示す。腸球菌は尿路感染症,腹腔内感染症,細菌性心内膜炎,血流感染症などの原因菌となる。VREは薬剤耐性菌であり,典型的な院内感染菌,日和見感染菌である。治療の選択肢が少ないことが問題となることもさることながら,他院からの転院患者等により院内に持ち込まれたVREが,排泄物や汚染物による環境汚染や医療従事者の手指を介して他の入院患者へ伝播することで,潜在的に院内に拡散,伝播する傾向が強く,感染対策に難渋することが多い。
腸球菌のVCM耐性化は,VCM耐性遺伝子(Van遺伝子)の獲得によって起こる。感染症法上は,VCMのMIC(最小発育阻止濃度)が16µg/mL以上(ディスク法の阻止円径が14mm以下)である腸球菌がVREと定義され,遺伝子の種類は問われていない。Van遺伝子は複数の種類があるが,臨床的に問題となるのはvanA,vanB,vanC遺伝子を有するVREである。vanA遺伝子タイプのVREではVCMのMICは高いが,vanB遺伝子タイプのVREには感受性と判断されうるレベルから高度耐性まで様々なMICの株があり,後者は特にルーチンの感受性検査では見逃す可能性があるため,注意が必要である。
世界的にはVanA型E. faeciumがVREとして最も多く分離されるが,日本ではE. faecalisやvanB遺伝子を有するVREも多く分離される。vanC遺伝子はもともと3菌種(E. gallinarum, E. casseliflavus, E. flavescens)すべてが保有する遺伝子(自然耐性)であり,VCMに耐性を示すが,菌株間での耐性の伝達は認められない。理論的にはすべての腸球菌がVREとなりうるが,一般的に病院感染対策上で問題となるVREは,vanAあるいはvanB遺伝子を持つ,E. faeciumあるいはE. faecalisである。
腸球菌は腸管内常在菌であり,臨床検体から検出されたからといって即座に治療対象となるわけではない。一方で,血液や髄液などの無菌検体からの検出や,感染徴候を伴う患者の臓器(例:腎盂腎炎疑いの患者の尿培養,腹腔内膿瘍の膿培養など)より検出される場合には治療の対象とする。感染症法ではVCMのMIC値が≧16μg/mLである腸球菌について,感染症原因菌と判断した場合には届け出義務がある(5類全数把握)。
残り1,428文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する