コレラ菌(Vibrio cholerae)の感染により発症する腸管感染症である。Vibrio choleraeには200種類以上の血清型が知られているが,コレラ毒素を産生する血清型O1とO139がコレラの原因となる。O1コレラ菌はさらに生物学的特徴により,古典型(アジア型)とエルトール型に分類される。O1とO139以外のコレラ菌はNAGビブリオ(non-agglutinable Vibrio)と称しコレラの原因菌と区別されている。
多くは軽症例で経過するが,一部の症例では短時間で致命的となりうる重篤な下痢症を引き起こす。感染症法で3類感染症に指定されており,診断した場合には直ちに最寄りの保健所を通して都道府県知事に報告する義務がある。衛生状況の改善により,国内での報告数は減少している。2000年以降はおおむね年間100人以下で推移しており,感染症法の変更で疑似症を含まなくなった2012年以降は,年間10例以下で経過している。大半は国外で感染したと考えられる症例である。
コレラ菌の感染後,数時間~5日(通常1日前後)の潜伏期間の後に発症する。75%は無症候性である。胃切除患者では易感染性になることが知られている。20%に軽度~中等度の,他の微生物による感染性腸炎と区別が困難な下痢症を発症する。5%に重度の臨床症状が発現し,特徴的な“米のとぎ汁”様の魚臭のする大量の水様便を呈する。その量は1日数Lから最重症例では数十Lに及ぶ場合もある。脱水や電解質の喪失,チアノーゼ,頻脈,皮膚の乾燥,無尿などの症状を呈し,電解質異常に伴う筋痙攣(多くは腓腹筋や大腿筋)を認めることもある。
確定診断は,便検体からの血清型O1ないしはO139コレラ菌の検出による。便検体の暗視野装置での検鏡検査は特異度が高いが,感度に欠けるとされている。日本では一般的に行われていない。TCBS培地はVibrio属の選択培地であり,白糖を分解するV. choleraeは特徴的な黄色のコロニーを呈する。
検査所見は脱水に伴う電解質異常,代謝性アシドーシスである。循環血漿量減少に伴う急性腎障害を伴うこともある。小児例では重度低血糖に起因する昏睡や,嘔吐に伴う誤嚥による肺炎を合併する場合がある。血液培養からコレラ菌が検出される侵襲性の感染は稀とされている。
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