成人脊柱変形は成人期の脊柱変形の総称であり,原因は変性,椎体骨折,骨粗鬆症,若年期側弯の遺残など多岐にわたる。また,これらの病態が併存するために,多彩な変形と症状を呈する「症候群」である。重度の脊柱変形は難治性疼痛や機能障害を生じ,著しくQOLを障害する1)。高齢者の健康寿命延伸の観点からも重要な疾患である。
腰痛,背部痛,下肢痛のほかに,逆流性食道炎などの臓器障害,脊椎骨盤のアライメント不良から生じる姿勢保持障害や歩行障害,外観上の整容,心理的問題などがあり,多岐にわたる。脊柱変形による腰痛は疲労性腰痛と表現され,短時間の起立歩行は可能であるが,時間や距離が長くなってくると体幹が前傾し腰痛が出現することが多い。これは腰部脊柱管狭窄症による神経性間欠跛行と似ており,注意が必要である。
立位全脊椎X線像が有用である。側弯,腰椎前弯の減少,骨盤後傾,体幹の前傾などをパラメータで評価する。矢状面のパラメータはQOLに関連していることから,重症度分類評価に用いられている2)。
対症的な治療が基本である。腰痛などの痛みに対しては鎮痛薬の処方や理学療法を行う。変形による歩行障害に対しては杖やシルバーカーなど補助具の使用を勧める。腰痛にはコルセットが有効なこともある。腰部脊柱管狭窄症を合併している例では下肢痛を伴っていることもあり,神経障害性疼痛治療薬や神経ブロック療法も併用する。保存療法に抵抗し,腰痛および姿勢保持困難のために著しいQOL障害を生じている場合は手術療法を考慮する。
成人脊柱変形に対する手術療法は主に胸腰椎の矯正固定術が行われ,良好なアライメントとQOLが獲得できる。ただし,高齢者の脊柱変形に対する矯正固定術では骨盤までの広範囲固定が必要となることが多く,術後に機能障害が生じる。具体的には,術後,足の爪切り,床からものを拾う,床から立ち上がるなどの動作がしにくくなる。したがって,術後に改善する症状と,固定によって失う動作は何かをよく説明し,手術の適応を決める。
成人脊柱変形には,脊柱変形があっても痛みや機能障害が生じず,QOLの低下が軽度の症例もある。そのために脊柱変形の形態だけで治療を決定することはできない。どのような症例に対して手術療法などの積極的な治療を行っていくかについては,個々の生活様式や家庭環境,患者の希望などによっても大きく異なってくるため,医師の総合的な判断が求められる。
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