高血圧性脳症は,速やかに降圧を要する高血圧性緊急症の一種である。脳血流自動調節能の上限を超える血圧の異常上昇により脳組織障害が急速に進行し,時に非可逆的な変化をきたし,致死的転帰へ至る。高血圧性脳症と初期評価の後に,後方可逆性脳症症候群(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES)と診断されることがある。
主な症状は意識障害,痙攣,頭痛,悪心・嘔吐,視力障害等である。緊急来院時に血圧高値(180/120mmHg以上)を確認する。確定診断には頭部CTまたはMRI検査を実施し,広範な脳浮腫所見を確認する。特にMRIが有用である。脳卒中(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),脳炎,腫瘍,血管炎,さらに脳波と臨床症状からてんかんなどを除外しえた場合には,高血圧性脳症と診断する。
高血圧性脳症として対応し,後にPRESと診断できた症例では,MRI FLAIR画像もしくはT2強調画像で後頭葉から頭頂葉にかけて両側大脳白質に高信号病変が出現し,時に皮質に波及する。同部位は拡散強調画像で等〜低信号となる。
入院治療を前提とし,病歴聴取,身体および神経診察と並行し,血圧を含むバイタルサインを記録する。極度の血圧上昇により,頭痛,嘔吐,意識障害,痙攣,視力・視野障害が出現した場合に本症の可能性を疑うよう心がけている。
血圧上昇の原因として,管理不良の慢性高血圧,急性・慢性腎不全,妊娠高血圧症候群,子癇,褐色細胞腫などの内分泌疾患,膠原病(全身性エリテマトーデスおよび血管炎),薬物中毒などの有無を確認する。血圧の上昇が「原因」なのか「結果」なのかを判断することにより適切な再発予防が可能となるため,全身状態の改善を待ち,精査を進める。PRESと診断した場合には,原因となる薬物を確認し,中止する。
経静脈的降圧薬を投与し速やかな降圧をめざす。高血圧性脳症と初期診断した症例で,脳主幹動脈の高度狭窄・閉塞を伴う急性期脳梗塞が明らかとなった場合は,急速かつ過度の降圧により脳虚血が拡大する可能性がある。したがって経静脈的降圧薬の投与が必要と判断した場合は,原則として集中治療室かそれに類する環境下で脳神経内科医・脳神経外科医が診療チームに加わり,治療を進める。経静脈的降圧薬の持続静注療法により静脈炎をきたすことがあるため,点滴ルート刺入部の皮膚状態を適宜確認する。経静脈的降圧薬の投与期間はできるだけ短期間にとどめ,可及的速やかに経口降圧薬へ変更する。
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