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新型出生前診断 [なかのとおるのええ加減でいきまっせ!(111)]

No.4816 (2016年08月13日発行) P.71

仲野 徹 (大阪大学病理学教授)

登録日: 2016-09-16

最終更新日: 2017-01-12

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時代の流れは速い。新型出生前診断─英語ではnon-invasive prenatal test(NIPT)、非侵襲的出生前検査─の臨床試験についての報道を聞いてつくづく思った。社会は科学の進歩に追いついていけるのだろうか。

血漿中には、微量だが遊離のDNAが流れている。妊娠中は、妊婦のDNAだけでなく、胎児由来のDNAもある程度混じっている。そこで、妊婦の血漿中にある遊離DNAの塩基配列を網羅的に決定して、胎児の染色体異常─21番、18番、13番のトリソミー─を見つけようという検査である。

トリソミーとは、本来2本であるべき染色体が3本ある染色体異常だ。染色体の量的な異常なので、決定した塩基配列の頻度から、これらの染色体の数が多いかどうかを調べることができるのである。解析するアルゴリズムは難しそうだけれど、原理的にはまことに単純で理にかなっている。

少し古いデータだが、NIPTコンソーシアムのHPで詳細を見ることができる。結果の報道を聞いて、陽性率1.8%という数字はえらく高いと思ったが、受検者の年齢構成を見ると納得だ。あらためて、高齢出産における染色体異常率の高さがよくわかる。

陽性結果をうけて羊水穿刺をおこない、胎児の染色体異常が確定した妊婦のうち94%が人工中絶を選択したそうだ。検査をうける時点で、異常があれば中絶と考えている人が多いだろうから、こんなものかもしれない。しかし、この高率をどうとらえるべきか。そして、出産を決意した6%の人たちは、どれだけ悩まれたことか。

偽陽性が10%というのは十分に及第点だろう。しかし、偽陽性でもNIPTの検査結果から染色体異常がないと確定するまでのストレスの大きさは、最終的に染色体異常が確定した人と変わりはないはずだ。

いまは臨床研究の段階だが、この報道によって、NIPTを希望する人は増えるだろう。希望者が多数派になった時、検査をうけないという決断が難しくならないだろうか。そして、医療機関はカウンセリングなどの対応が十分にできるのだろうか。

知るのが不可能であったことが、科学の進歩で可能になる。知ろうとするか、結果を知ったらどうするか、の決断が迫られる。自己責任と言えばそれまでだが、そのためには正確な知識が必要だ。はぁ、世の中はどんどん複雑になっていきますなぁ。

なかののつぶやき
「今を去ること35年ほど前の医学生時代、産婦人科の講義で、染色体異常の可能性が高くなるので、できるだけ35歳までに産み終わることが望ましいと習った記憶があるけれど、いまや出産の4分の1が35歳以上。これからもこの傾向はかわらへんでしょうねぇ。しかし、社会っちゅうのは、予想以上に変化するもんですなぁ」

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