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厚労省PT「福祉の提供ビジョン」をどう読むか?─医療関係者が注目・参考にすべき3点 [深層を読む・真相を解く(48)]

No.4773 (2015年10月17日発行) P.17

二木 立 (日本福祉大学学長)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-02-10

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  • 厚生労働省の「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム」は9月17日、「誰もが支え合う地域の構築に向けた福祉サービスの実現─新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」(以下、「ビジョン」)を発表しました。この「ビジョン」は厚労省の公式報告ではなく「叩き台」です。しかも、検討会の構成員(37人)は全員厚労省の現役職員であり、大学の研究者等は含まれません。それだけに、「ビジョン」には同省が考えている今後の福祉改革(短期と中長期の両方)の方向・願望が比較的ストレートに書かれています。

    しかも、今後の医療改革を考える上で参考になる点も少なくないので、本連載で紹介・検討することにしました。医療関係者に特に注目・参考にしていただきたい点は、以下の3つを提起しているところです。

    ・高齢者に限定されている地域包括ケアシステムの全世代への拡大
    ・「生産性向上(効率化)」の定義とそれを向上する方法
    ・今後福祉専門職が新たに持つべき3つの能力

    検討会の構成員と「ビジョン」の骨格

    「ビジョン」を取りまとめた検討会は、「プロジェクトチーム」「幹事会」「ワーキンググループ」の3層構成で、最上層のプロジェクトチームの構成員は雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長、障害保健福祉部長、政策統括官(社会保障担当)の5人です。「幹事会」と「ワーキンググループ」には健康局のメンバーも入っています。3つの組織とも責任者(主査、主幹事、リーダー)は社会・援護局のメンバーであり、このことは「ビジョン」が同局主導でまとめられたことを示唆しています。

    「ビジョン」は以下の5部構成です。(1)総論、(2)様々なニーズに対応する新しい地域包括支援体制の構築、(3)サービスを効果的・効率的に提供するための生産性向上、(4)新しい地域包括支援体制を担う人材の育成・確保、(5)今後の進め方。これらの中心は、(2)〜(4)の3つです。

    (2)〜(4)の記述には、福祉関係者が長年求めてきたものも多数含まれています。特に重要なものは、地域包括ケアシステムの対象拡大、縦割り行政の改善、地域づくり・まちづくりの重視だと思います。
    私が特に注目したことは、「ビジョン」に示された福祉改革には、安倍政権が6月に閣議決定した「骨太方針2015」の社会保障改革部分に入っていた、社会保障への市場原理導入(「社会保障関連分野の産業化」)と、家族を含む「自助を基本」とする社会保障観が含まれていないことです。これは、厚労省の矜持の表れかもしれません。

    他面、福祉改革の財源にはまったく触れておらず、「ビジョン」で示された改革が今後どこまで実現するかは不透明です。また、「ビジョン」には厚労省の2016年度予算概算要求における福祉分野の新規事業の「理論武装」という面もあると思います。以下、3つの柱に沿って紹介・検討します。

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