ワクチンの接種率が高まり、新型コロナウイルスの新規感染者数は落ち着いている状況が続いている。しかし“第6波”の到来に備え、医療提供体制のさらなる拡充が求められている。こうした中、自宅療養者向けに無料オンライン診療サービスを開始したのが、オンライン診療システムでトップシェアを誇るCLINICSを提供するメドレー。同社が目指すこれからの医療提供のあり方について田中大介執行役員に話を聞いた。
田中 我々が手掛けているのは、いわゆる外来診療をオンライン化する「CLINICSオンライン診療」とNTTグループと連携して8月にサービスを開始した「新型コロナ療養者向けオンライン診療システム」です。これは第5波で課題となった自宅療養者への医療提供を可能にするもので、ビデオ通話を用いた簡易的なオンライン診療システムです。現在は新規感染者数が落ち着いてきていますが、サービスを開始した8月から10月まではとても反響があり、医療機関への導入が我々の想定以上に進みました。
このサービスは自治体の担当者の方からの関心が高く、新型コロナの感染再拡大や新興感染症に備え、自治体や医師会単位などで導入するというケースが出てきています。
田中 当社が2016年から提供している「CLINICSオンライン診療」は、外来における予約から会計、処方までの一連の流れをスムーズにする機能を最適化するためにデザインされています。通常の外来はこれで問題ないのですが、新型コロナ患者の診療では、公費のため会計は発生しませんし、中等症の患者さんはアプリへの患者登録自体が困難な状態も多く、もう少しシンプルなシステムが必要と考え、NTTさんと連携して提供に至りました。電話診療より情報量が増え、ストレスなくその場で医療にすぐアクセスできるので普及が進んでいるのだと思います。
田中 2020年4月10日の通知で要件が大幅に緩和され、診療報酬も特例的な扱いで増額となり、そこから大きく景色が変わりました。現状は通知前の2020年3月時点と比較すると倍以上の実施水準が続いています。CLINICSは約2600の医療機関に導入実績があります。個人的な考えですが、これからさらに普及していくには、医師の判断によってオンラインが実施可能で、報酬額の水準も対面診療と同等程度になっていくことが必要だと考えています。かかりつけ医として患者さんとのつながりを持ち続けるためのツールとして合理的に取り組むことのできる制度設計が求められています。
田中 全く別業界の例えですが、コロナ禍においてフードデリバリーに対応する飲食店は一気に増加しました。これは飲食店が商品の価格を自由に決めることができるからだと考えます。例えば、同じ料理を提供しているにも関わらず「デリバリーの価格は来店した場合の価格の◯割に抑えなければいけない」というルールがあった場合、デリバリーに対応する飲食店の増加率はもっと低くなったはずです。
一方で、オンライン診療は現状まさに「オンライン診療の診療報酬が対面診療のそれと比較して低く設定されている」という状況になっており、医療機関側にとっての導入メリットがやや限定的になっています。オンラインでも対面でも同様に評価できる要素は多いはずです。例えば特定疾患療養管理料は「プライマリケア機能を担うかかりつけ医師が計画的に療養上の管理を行うこと」を評価する管理料ですが、この管理はオンラインでも対面でも同じ様に行うことも可能であるはずです。こうした部分をしっかり検証して評価をしていくことが重要なのではないでしょうか。
田中 コロナ療養者向けシステムのユーザーの先生からもよく話がありますが、電話診療とは全然情報量が違います。パルスオキシメーターをしっかりつけられているか目視で確認できたり、顔色を確認したり、電話では把握できない情報があります。明らかに情報量が違うにも関わらず電話診療と同じ診療報酬で、しかも電話診療では求められていない研修が必要というねじれのような現象もあるので、解消していく必要があると感じています。これからは、電話診療とリアルタイムの情報通信機器と対面診療という3つのカテゴリーで考え、評価に階段を付けていくことが現実的なのではないでしょうか。
田中 20年9月の薬機法改正により、オンライン診療を受けた後に薬局の予約を取り、薬剤師さんによるオンライン服薬指導を受け、自宅で薬を受け取ることができるようになりました。オンライン服薬指導をはじめ、かかりつけ薬局になるための業務支援をする「Pharms」というサービスも展開しています。その1つの機能として、医療機関にQRコードを設置してもらい、患者さんが処方箋を受け取った後にQRを読み込むと近くのPharms導入薬局を知ることができて、患者用のアプリ登録なしでも薬局に処方せん画像が送れるというサービスを始めました。オンライン診療・服薬指導とは関係ないサービスですが、患者さんの薬局での待ち時間の軽減につながり、医療機関・薬局との連携によって患者の医療体験が向上します。
田中 我々が目指すのは、デジタルを通じて医療機関と患者さんがつながっていくことです。医療機関が使いやすいという観点だけでなく、患者さんがIDやアプリを活用すれば、予約や決済がスムーズにできるような利便性を追求しています。患者さんとかかりつけのクリニックが密につながっていくために必要なサービスを今後も展開していきたいと考えています。
日本医事新報5092号別冊付録「感染防止対策特集」より