いろいろな事情があって,医療機関を受診できずに処方箋の交付を受けられない患者がおります。患者本人が来院できない場合,看護に当たっている者からの意見を聴き処方箋交付という流れになりますが,このような形態でいつまで処方箋交付が可能なのでしょうか。
①そうですか。それではしばらくは本人に代わって来院して下さい。
②世話をしている方も大変でしょうが,今後は患者本人を診ずにお薬は出せません。来院が困難であれば,近医を紹介しますからそこで受診されてはいかがでしょうか?
患者の事情も理解できますが,医師法では「無診察処方」が禁じられており,違反することで医師が罰せられることになります。①のように説明するにしても家族等に交付する場合,予見できる程度の期間でかつ症状が安定していることを条件に2~3カ月に1回程度の診察は必須と思われます。来院が困難な状況であれば,近医や夜間に診療を行っている医療機関を紹介するなど,②のような説明がよろしいと思います。
冒頭の事例のように引きこもり患者に限らず,足腰が弱って来院できない患者や付き添ってくれる人がいなくて来院できない患者等,いろいろな事情で診察できない患者がいます(無診察処方については『もつれない患者との会話術 第2版』CASE06を参照)。診療報酬算定上は,看護に当たっている者から意見を聴いたり,電話による診察でも薬を出せますが,このような場合にいつまで薬を出せるのでしょうか?
医師法第20条では,医師自ら診察しないで治療,処方箋,診断書等の交付をすることを禁止する規定を設けています(無診察治療等の禁止)。薬は異物であり,ひとつ使用法を誤れば危険な状態に陥ることもありますし,副作用が起こりうる可能性もあります。患者の求めによる安易な投与によって病状が悪化し,医師の過失責任や医療過誤としての法的責任が問われることも考えられることから,診察を行い症状に合った薬を予見しうる日数分だけ慎重に投与すべきということになります。
法的に見ると,医薬品の使用に当たっての医師の注意義務,その根拠となる予見可能性・予見義務・回避可能性・回避義務が果たされていたかどうかが問題となります。予見は医師が投与する際に求められる注意義務とされています。医薬品には必ず副作用があり患者の症状や疾患によって適切に服用することが望ましいこと,場合によっては一定期間ごとの診療によるチェックが必要であることなどを十分説明する必要があります。