心筋層に炎症をきたす疾患の総称である。先進国での多くの症例はウイルス感染による。発症様式では急性が,組織学的にはリンパ球性が多い。心肺危機に陥るものを,劇症型心筋炎と呼ぶ。
感冒症例に心異常を随伴する場合,本疾患を頭に浮かべられるかが診断で最も重要なわかれ道である。
ウイルス感染症状と心症状とが併存する。感染症状として,心症状に数日~1週間ほど先んじて発熱を伴う感冒様症状がある。心症状として,心不全および不整脈に起因する呼吸困難・倦怠感・動悸・失神がみられる。心膜炎併発による胸痛も多い。
心筋の炎症所見:心筋生検での炎症細胞浸潤にて確定診断する。しかし,生検はサンプリングエラーがあり,侵襲も低くない。最近では,67Ga心筋シンチグラフィーとともに,心臓MRI(Gd遅延造影像とT2強調での高信号像)が活用される。
心ポンプ不全:低血圧・心ギャロップ音・四肢冷感がみられる。心電図変化,特にST-T異常はほぼ全例でみられ,冠動脈支配と一致しない広範誘導のST上昇である。血液検査では,血中心筋トロポニンの上昇が高感度である。心エコー図では,心収縮能低下と壁肥厚があり,びまん性に分布する。鑑別すべきは急性心筋梗塞であり,冠動脈造影は除外診断に必須である。
不整脈:房室ブロックや脚ブロックなどの心伝導異常,心室頻拍などの心室性不整脈がみられる。高熱と,それに乖離する徐脈で本症が見つかる場合もある。
心筋炎そのものに特異的な治療は,確立していない。したがって,心病態に対しての管理を行い,炎症の自然消退を待つ。長期の人工循環補助例では,心臓移植の適応を判断する。本疾患は経過の予想が困難で,急激な悪化も起こりうる。抜け目のない観察と,変化に適切に対応できる判断力・臨床力が求められる。なお,非ステロイド性抗炎症薬は,急性心筋炎の予後を悪化させるとの報告がある。
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