コレラ菌(Vibrio cholerae)は,O抗原の違いにより約210種類の血清型に分類されるが,その中でO1血清型あるいはO139血清型に属し,かつ,コレラ毒素を産生するコレラ菌(V. cholerae O1またはV. cholerae O139)の感染症をコレラという。V. cholerae O1はさらに古典型(アジア型)とエルトール型の生物型にわけられる。コレラの症状は,V. cholerae O1またはV. cholerae O139が感染者の小腸腔内で産生したコレラ毒素に起因する。
コレラの潜伏期間は1~5日(1~3日が多い)で,下痢を主症状とする。古典型のV. cholerae O1に比べて,エルトール型のV. cholerae O1によるものは軽症例が多いが,エルトール型であっても古典型でみられるような持続する薄白色水様便を呈し,重症化することがある。特に胃切除者や胃酸分泌抑制作用のある薬剤を服用している場合は,胃酸による殺菌効果が期待できないことから,感染すれば重症化する傾向にあるので,注意する。下痢の程度は激しい水様便から軽度の軟便まで,症例により様々である。中等症~重症例では,有名な表現である「米のとぎ汁様」と称される薄白色水様下痢がみられ,重症例では持続する下痢により脱水,さらには腎前性腎不全状態やショック状態に陥ることもある。通常,血便や発熱は伴わない。重症例では電解質喪失や脱水を反映して,血液検査でK+低値,BUNやCreの高値,HCO3-喪失による代謝性アシドーシスがみられる。
世界では,流行している国々を中心に年間130万~400万人のコレラ症例と,2万1000~14万3000人の死者が発生していると推測する報告がある1)。
コレラは3類感染症に指定されており,コレラの患者および無症状病原体保有者を診断した医師や,コレラによるあるいはそれが疑われる死体を検案した医師には,直ちに最寄りの保健所へ届け出る義務が課されている。なお,日本から報告される感染者数は年間10人以下である。
V. cholerae O1またはV. cholerae O139に属し,コレラ毒素を産生するコレラ菌を便から検出することで診断する。コレラ毒素を確認する方法として,逆受身ラテックス凝集反応(RPLA)やELISA法などの免疫学的な方法による毒素の確認や,PCR法によるコレラ毒素遺伝子の確認がある。
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