偽痛風は高齢者になるほど発生頻度の高い疾患であるが,過小診断されている可能性がある。
急性で濁った関節液が溜まった関節炎では常に感染性関節炎との鑑別が大事である。
いまだに原因や治療法が確立していない疾患である。
1962年にMcCartyが初めて偽痛風症候群として提唱した偽痛風は,最近ではピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophosphate deposition:CPPD)の一部とされ,高齢者に突然の関節炎をきたす疾患だが,発症機序などいまだ不明な点が多い1)。関節の腫脹と疼痛をきたし,関節穿刺で混濁した液を採取した場合は,高度な炎症,関節リウマチ,痛風,偽痛風,感染を疑うが,急を要しない関節リウマチや痛風との鑑別は困難ではなくても,早期の診断と治療を要する感染性関節炎との鑑別は必ずしも容易ではない。また確立した治療法や予防法はなく,高齢者に多く発症するため薬剤の副作用にも注意を要する。
当院では2008年7月〜2021年9月までに51例の偽痛風を経験し,それらの様々な臨床像からいくつかの知見を得たので報告する。
RyanとMcCartyらの診断基準により膝関節は関節液に偏光顕微鏡でピロリン酸カルシウム(calcium pyrophosphate:CPP)結晶を確認でき,かつX線で点状・線状の石灰化陰影を認める場合をdefiniteの偽痛風とした2)。ほかの関節では関節液の採取が必ずしも簡単ではなく,得られたとしても関節液が少量でCPP結晶の検出が容易ではない。そのため,関節液に偏光顕微鏡でCPP結晶を認めた場合か,X線で石灰化陰影を認める急性炎症の場合をprobableの偽痛風とした。
全症例は43〜101歳までの51例:平均年齢80歳,男性15例:平均年齢75歳,女性36例:平均年齢82歳,であった(図1)。
51症例87全罹患関節(再発の繰り返し,両側同時発症も含む)の内訳は,膝関節74例(85.1%),手関節6例(6.9%),肩関節3例(3.4%),足関節3例(3.4%),ベーカー囊胞1例(1.1%)であった。
基礎疾患は膝関節発症の1例のみ関節リウマチであったが,残りの膝関節発症例はすべて変形性膝関節症であり,手関節発症例は手関節炎,肩関節発症例は肩関節周囲炎,足関節発症例は足関節炎,ベーカー囊胞発症例は変形性膝関節症であった。
51例中偽痛風性の膝関節炎を発症した症例は44例であったが,44例すべてに膝半月板に石灰化陰影を認めている。44例中6例は罹患関節の半月板のみ石灰化陰影があり,健側の膝関節半月板には石灰化陰影がみられなかった。今回の検討では膝関節はdefiniteのみを選んでいるので当然ではあるが,関節液にCPP結晶を認めてX線検査で石灰化陰影がない症例はなかった。膝関節に関しては偽痛風性関節炎に半月板の石灰化陰影は100%存在した。5例では,数年以上前のX線検査では膝関節半月板に石灰化陰影は認められなかったが,偽痛風発作時に半月板に石灰化陰影が出現していた。
18例が1〜4回の再発を繰り返していた(全症例中35.3%)。1回再発11例,2回再発5例,3回再発1例,4回再発1例であった。再発に関してどの関節が再発を起こすか,また再発までの期間については特に傾向はなかった。
両側膝関節に同時発症が7例あり,すべて女性で全症例中13.7%であった。7例中5例は再発も繰り返していた。
若年性偽痛風が2例(43歳と44歳)あり,43歳男性は右膝偽痛風性関節炎で,17歳頃にスポーツ外傷で右膝半月板の手術を受けている。家族歴は特になく,X線検査で右膝の外側半月板にのみ線状の石灰化陰影を認めた。関節液からCPP結晶が確認され偽痛風性関節炎と診断した。血液検査ではカルシウム,リン,マグネシウム,鉄は正常値で,PTHインタクトがわずかに高値で73pg/mL,トランスフェリンは正常値,フェリチンが620ng/mLと高値を示していたが,副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシスの症状はまったくなかった。
44歳男性も右膝偽痛風性関節炎で,17歳頃にバイク事故で右大腿骨骨折を受傷し,プレート固定の手術を受けている。家族歴は特にない。X線検査で右膝のみ内外側半月板に線状の石灰化陰影を認め(図2),関節液からCPP結晶が確認され,偽痛風性関節炎と診断した。カルシウム値などは正常で,PTHやトランスフェリンなどは検査できていない。
左膝後方のベーカー囊胞(膝窩囊胞)に発生した偽痛風が1例(77歳女性)あった。X線検査で両側の変形性変化と両膝半月板の線状の石灰化陰影を認め,ベーカー囊胞穿刺液にCPP結晶が存在し偽痛風と診断した。
膝関節は全例で関節穿刺で関節液を採取し,足関節などで関節液が採取できた場合も含めて血液検査と同時に,関節液内の痛風結晶とCPP結晶の有無を偏光顕微鏡で依頼し,さらに菌検査で検鏡と培養を依頼した。膝関節以外で関節液が採取できていない場合は血液検査のみを行った。
血液検査では血清カルシウム値が高値な症例はなく,軽度の低カルシウム血症が5例あった。体温は測定していないが,高熱を発した症例はなかった。
治療は,コルヒチンは日本人には副作用が多いのと適応症ではないので,まったく使用しなかった3)。全例に局所の軽い安静と消炎鎮痛薬の貼付剤とクリームで炎症を抑え,年齢と症状に合わせて弱めか強めの経口非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)や坐薬を投与した。胃腸障害や腎障害がある場合は,NSAIDsは使わずアセトアミノフェンを投与した。短期間に再発を繰り返した5例はNSAIDsでコントロールできなかったため,プレドニゾロン10mgを経口投与し,その後漸減し,2〜24週ほどでプレドニゾロンを中止し,再発を止めることができた。
関節液が濁っている場合は,感染性関節炎との鑑別がすぐにはつかないのと,トリアムシノロンアセトニドなどのステロイドは感染を悪化させる可能性があるので注入せず,代わりにヒアルロン酸を関節内注射した。
欧州リウマチ学会(European League against Rheumatic Diseases:EULAR)は従来の偽痛風を含めて,CPPDという概念を提案し,4つに分類した4)。
①臨床症状のない無症候性CPPD:X線検査でたまたま軟骨内石灰化症が見つかったもの。
②CPPDを伴う変形性関節症:画像や組織検査で変形性関節症にたまたまCPP結晶が見つかったもの。
③急性CPP結晶性関節炎:従来の偽痛風。
④慢性CPP結晶性関節炎:CPPDを伴う慢性の関節炎。
当院における51症例はすべてこの分類③急性CPP結晶性関節炎,いわゆる偽痛風性関節炎であった。
軟骨の石灰化は加齢とともに増える。50歳以下には稀で,60歳で7〜10%,65〜75歳で10〜15%,85歳以上30〜50%とされ3),60歳以上なら10歳ごとに軟骨の石灰化が2倍に増えるとされている5)。多くの場合はEULARの分類①にあたる無症候性CPPDであるが,一部の患者が急性CPP結晶性関節炎(偽痛風)を起こす。当院における年代別発生頻度は40歳代2例,50歳代1例,60歳代5例,70歳代13例,80歳代23例,90歳以上7例と60歳以上ではやはり10歳ごとにほぼ倍の頻度で増えている(図1)。90歳以上の患者が少ないのは高齢で患者数が減ってくるためと考えられた6)。
痛風が男性に圧倒的に多いのに比較して,偽痛風では男女差はないとされている7)。当院においては60歳未満の3例はいずれも男性であったが,60歳以上では女性の比率が2倍以上多い。久保田らは65歳未満では男性が女性より多く,65歳以上では女性が多いと報告している6)。人口調査では60歳以上では徐々に女性の人口比が男性より増えていくことと,変形性膝関節症の有病率は女性のほうが高いことにも関連している可能性がある8)。
罹患関節は再発や両側同時発症も含めて,51症例87全罹患関節中で膝関節が74例,85.1%と圧倒的に多かった。諸家の報告でも膝関節が50%を超えることが多い4)6)7)。当院で膝関節例が圧倒的に多い理由としては,①膝関節以外の急性関節炎では関節液穿刺が困難な場合が多い,②膝関節以外ではX線検査で石灰化陰影を認めないことも多く,偽痛風性関節炎と診断しえていない,または見逃している可能性がある等が挙げられる。しかし,諸家の報告でも膝関節が半数以上を占めていることから,膝関節が人体で最大の関節であり,軟骨成分が多い,また半月板も大きく,さらに荷重関節で外傷を受けやすい(後述)等の要素で偽痛風性関節炎が膝関節に多いと推察した。偽痛風は診断を見逃されやすい疾患とされている5)。
当院の51例中44例は膝関節のすべてで片側か両側の半月板に石灰化陰影を認めている。しかし,諸家の報告では石灰化陰影は偽痛風性関節炎に必ずしも必須ではないとされていている5)。つまりRyanとMcCartyらの分類のprobableの症例も含んだ報告が多いと考える。当院では膝関節症例はすべてRyanとMcCartyらの分類によるdefinite基準,つまり偏光顕微鏡でCPP結晶を認め,かつX線検査で石灰化陰影を認めた場合のみを選んでいるためこの違いが生じていると考えた。
X線検査で石灰化陰影が他の関節より膝関節に多い理由としては,膝関節が人体で最大の関節で軟骨量が多いこと,半月板は平らで水平に見た時に半月板内に蓄積したCPP結晶が銀河系の中心を横から見るmilky wayのようにより濃く見えることが理由と推察した。
エコー検査のほうがX線検査よりも軟骨内あるいは半月板内の石灰化を検出しやすいとの報告がある4)9)10)。膝関節の大腿骨と脛骨間の半月板に点状の高エコー領域があれば半月板の石灰化を示し,さらに大腿骨顆部の軟骨を上手く描出すれば軟骨内に高エコー領域が描出される9)10)。筆者はエコー機器をクリニックに備えているが,まだ技術が稚拙なためか,エコーで半月板の高エコー領域が見えてもそれが石灰化陰影だと断定できるレベルまで達していない。大腿骨顆部の関節軟骨内に高エコー領域は見出せていない。
諸家の報告では,CPPDの関節について単なる変形性関節よりも関節の破壊度が強いとの報告が多い5)11)。当院の症例を石灰化陰影のない症例と比較はしていないが,51例中片方の膝に石灰化陰影があり他方にはみられない症例が6例,片方の手関節に石灰化陰影があり他方にはない症例が1例あり,これら7例のX線検査で左右の関節の変形や破壊度を詳細に検討したが,差はみられなかった。
軟骨細胞内の無機ピロリン酸,あるいは細胞外基質中の軟骨小胞内の無機ピロリン酸がANKH蛋白により細胞外基質に運ばれてカルシウムと結合してCPP結晶が産生される機序が最近の研究でわかってきた5)。そのCPP結晶が関節軟骨基質や結合織に加齢とともに蓄積し,何らかの機序,たとえばカルシウム低下などにより関節液中に剝離して急性炎症を起こすと考えられている11)12)。
自験例でも51例中5例が以前半月板の石灰化陰影がなかったにもかかわらず,後に出現して偽痛風性関節炎を生じており,加齢による影響が示された。また,半月板手術を受けた人が受けていない人よりCPP結晶沈着が5倍多いという文献がある4)5)。当院でも今回の若年性の2例について,若いにもかかわらず,25年以上前に手術を受けた右の膝関節にのみ石灰化陰影がみられたことから,CPP結晶の沈着は経年的な要素以外に,半月板の傷が大きな要因になっている可能性が強く示唆された。60歳以上の高齢者でも4例は患側の膝関節のみに石灰化陰影が認められていて,この4例も代謝性などは考えにくく,以前に半月板などに外傷を受けた可能性がある。
合併疾患として副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシス,低マグネシウム血症,家族性偽痛風のような遺伝性疾患などが報告されており,副甲状腺機能亢進症では明らかに偽痛風が起こりやすいとされている4)5)。マグネシウムはホスファターゼのピロリン酸分解作用の補助的役割を担っているので,マグネシウム低下によりピロリン酸の蓄積が増えると説明されている13)。当院の51例には代謝性や遺伝性の素因はなかった。
血液検査では諸家の報告通り,白血球数は3700〜17900(平均8282)/μLと全体的に高くなく,CRPは0.02〜23.86(平均8.0)mg/dLと高い傾向にあった6)。血清カルシウムは諸家の報告では高いとする報告や低いとする報告があるが,当院の症例では血清カルシウム値が高値な症例はなく,軽度の低カルシウム血症が5例あった。当院が採用している検査会社での血清カルシウム値の正常値は8.4〜10.4mg/dLなので,血清カルシウム値の平均値は8.9mg/dLと全体的に低値であった。血清リン値は従来測定していなかったが,2例のみ測定しいずれも正常値であった。血清マグネシウム値も2例のみ測定し,いずれも正常値であった。若年性の43歳男性のみ,様々な血液検査を追加し,TSH,トランスフェリンは正常値でPTHインタクトがやや高値,フェリチンが高値を示していたが,副甲状腺機能亢進症やヘモクロマトーシスの徴候はなかった。偽痛風は50歳以下の若年性は稀で,若年性の場合は家族性や代謝性などの原因が指摘されている5)。当院の51例中43歳男性と44歳男性の2例が若年性であったが,2例とも家族性や代謝性の疾患はなかった。
軟骨基質中や半月板のCPP結晶が突然関節液に溶出する機序(crystal shedding)ははっきりしていないが,51例中7例が両側膝関節で同時発症していることから,関節液など関節内だけの要因では説明できず,また手術や外傷が起因とも考えにくい。
血清カルシウム濃度の低下などがきっかけになり,関節軟骨や半月板に沈着していたCPP結晶が溶けて関節液中に放出された可能性がある11)12)。当院51例中で高カルシウム血症の例はなく,平均値は低めで5例が低カルシウム血症をきたしていたことはそれを示唆する。手術直後や腎臓病や脳梗塞などで入院中に発作を起こす報告があるが,ループ利尿薬で低マグネシウム血症をきたしている可能性が示唆されている13)。当院の症例では特に合併症に特徴はなかった。
痛風と異なり偽痛風を根本的に治療する薬剤も予防する薬剤も現在のところない14)。急性関節炎に対してはNSAIDsが基本であり,関節液がある場合に関節穿刺を行うが,関節内に長期作用型のトリアムシノロンアセトニドなどのステロイドを注入すると炎症が速やかに消退する。しかし,筆者は関節内注射で5例の医原性感染性関節炎を起こしたことがあり,その1例目ではヒアルロン酸関節内注射後数日で関節腫脹をきたし,穿刺で少し濁った液を得て,偽痛風性関節炎と誤診してしまった。結果的に感染性関節炎の治療が遅れた経験から,この10年間は濁った関節液を得た場合はステロイドを注入せずヒアルロン酸を関節内注射している15)。ヒアルロン酸が偽痛風を増悪する可能性について議論があるが5),ヒアルロン酸は直接CPPDには関与しないと考えている。
欧米ではNSAIDs以外にコルヒチン,メトトレキサート(MTX),クロロキン,interleukin-1βなどの使用例があるが5)14),コルヒチンは日本人には感受性が高く,下痢やミオパチーなどの副作用が欧米人より生じやすいことと偽痛風には適応外であるため筆者は使用経験がない3)。MTXは効果がないとされる文献もあり5),クロロキンやinterleukin-1βなどはまだ考証が必要と考える。
当院の18例では1回以上再発をきたし,そのうち5例は短期間に再発をきたしてNSAIDsでコントロール不可能であったため,プレドニゾロン10mgを経口投与し,その後漸減し2〜24週で関節炎は治まった。再発を繰り返す場合はプレドニゾロンの少量投与が効果的であると考えられた5)14)。
高齢者の急性の関節炎では,偽痛風を念頭に置いて感染性関節炎の鑑別診断を行いつつ迅速な対応が必要である。
【文献】
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