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レプトスピラ症[私の治療]

No.5109 (2022年03月26日発行) P.42

伊藤 渉 (兵庫県立尼崎総合医療センター感染症内科・ER総合診療科)

松尾裕央 (兵庫県立尼崎総合医療センター感染症内科・ER総合診療科)

登録日: 2022-03-26

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  • レプトスピラはスピロヘータ目に属する螺旋状グラム陰性細菌であり,げっ歯類や家畜などの哺乳動物の腎臓に保菌され尿中に排菌される。感染動物の尿に直接,または汚染された土壌や水に曝露することで,経皮的・経口的にヒトへ感染しレプトスピラ症を発症する。4類感染症に指定されており,国内の各地で報告がある。

    ▶診断のポイント

    【曝露歴・症状】

    職業や趣味,気候や水害などを契機とした淡水曝露歴や動物接触歴が診断の手がかりとなる。潜伏期間は1~21日とされる1)。無症状または軽症であることが多く症状も非特異的だが,発熱はほぼ全例でみられ,結膜充血と筋痛(特に下腿や腰部)の特異度が比較的高い2)。重症例はワイル病として知られ,黄疸・腎機能障害・出血傾向を伴う。

    【検査】

    血液や尿,髄液の培養検査は感度が低い。確定診断には顕微鏡下凝集試験(microscopic agglutination test:MAT)による抗体価測定や,PCR法によるレプトスピラ遺伝子の検出が必要であり,保健所に相談する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    特異的な臨床症状や検査所見に乏しく,確立された迅速診断方法もないことから,病初期にレプトスピラ症と診断することは難しい。実際には,淡水曝露歴や動物接触歴などからレプトスピラ症を鑑別疾患に挙げ,発熱や結膜充血など矛盾ない臨床症状があれば,その時点で治療を開始する。

    軽症例(バイタルサイン安定,ワイル病を疑わない)は外来でビブラマイシン(ドキシサイクリン塩酸塩水和物)を処方するが,副作用に光線過敏症や色素沈着,食道潰瘍があり,注意を要する。ビブラマイシンを使用できない場合はサワシリン(アモキシシリン水和物)やジスロマック(アジスロマイシン水和物)を処方する。

    重症例(バイタルサイン不安定,ワイル病を疑う,など)は入院治療を要する。ワイル病のほか,急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)や肺胞出血,心筋炎など,呼吸循環動態に直結する合併症を呈しうるため,場合によっては高次医療機関での集学的治療も検討される。診断が確定している場合,注射用ペニシリンGカリウム(ベンジルペニシリンカリウム)やビクシリン(アンピシリンナトリウム),ロセフィン(セフトリアキソンナトリウム水和物)を使用する。重症例において,テトラサイクリン系抗菌薬は上記薬剤の代替薬という位置づけであり,ミノマイシン(ミノサイクリン塩酸塩)が第二選択薬となる。診断が確定していない場合,重症例に対してレプトスピラ症のみを想定し治療を開始することは,実際には非現実的である。レプトスピラ症が鑑別疾患に挙がるような臨床状況では,ロセフィンやミノマイシンなどを併用して初期治療を行うことがある。

    なお,抗菌薬投与前には各種培養検査を提出し,保健所提出用の検体を保存する。抗体検査には血清検体を,遺伝子検査には全血,尿,髄液検体を用いる。

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