低身長は「当該年齢の標準身長の-2SD以下あるいは3パーセンタイル以下の成長障害」と定義される。その原因は多様であり,体質性,内分泌疾患,染色体異常や奇形症候群,先天性代謝異常症,骨系統疾患,慢性疾患,栄養障害,精神的要因,薬剤性などが挙げられるが,明らかな病的原因を確定できるのは約5%である。
問診では,周産期歴(在胎週数,出生身長・体重,新生児仮死の有無,子宮内発育不全の有無など),既往歴(発達歴,ステロイド使用歴など),家族歴(家族の低身長の有無,両親の発育歴や思春期発来の時期を含む),生活背景(食習慣,運動習慣,睡眠時間など)が有用な情報となる。多飲・多尿,頭痛,嘔気・嘔吐,視力低下などの症状の有無も確認しておきたい。身体の診察では,特徴的顔貌や外表奇形の有無,アームスパン,四肢体幹のバランスのほか,思春期発達や思春期発来時期も評価する。また,成長率を確認することによって原因を推測しうることもあるため,成長曲線の作成は必要である。低身長の診察では,介入すべき原因の有無を確認することと,成長ホルモン(GH)補充療法の対象となるかを判断することが重要である。なお,低身長と診断された症例のうち,約90%は治療の対象とならない。
低身長に対する治療はGH補充療法であるが,わが国で現在適応となるのは,GH分泌不全性低身長症(GHD),Turner症候群による低身長,Prader-Willi症候群による低身長,軟骨異栄養症による低身長,慢性腎不全に伴う低身長,Noonan症候群による低身長,SGA(small-for-gestational age)性低身長症である。そのうちSGA性低身長症以外の6疾患は,通常,「小児慢性特定疾病」の認定基準1)を満たした場合に,各自治体に医療費助成を申請し,承認を得た上で治療を開始するが,この基準を満たさない場合でも,他の医療費助成制度を用いて治療を行うこともある。SGA性低身長症は適応基準を満たせば,高額療養費制度でGH補充療法を行うことができる。
GH補充療法における投与量は対象疾患によって異なり,週6~7日にわけて,1日1回就寝前に皮下注射する。20%以上の肥満を伴う場合は標準体重×1.2(kg)の値を用いて投与量を計算する。治療開始後はGHによる副作用の有無を確認するために,3~6カ月を目安として,定期的に血液検査や尿検査を行う。
成人身長を改善するためには,GH補充療法を早期に開始することが推奨される。しかし注射をほぼ連日行う必要があり,治療に対する患者の理解や協力が必要であるため,3~4歳からとなることが多い。当科では,患児が注射の必要性を自覚できる4歳頃を治療開始の目安としている。
皮下注射を同じ部位に行い続けると,脂肪組織を含む皮下組織に炎症を起こす可能性があり,皮膚が硬くなることがあるため,注射部位は毎日変える。
脳腫瘍あるいは他の腫瘍に対する治療に起因するGHDの場合は,GHによる細胞増殖作用を鑑み,GH補充療法の開始時期について十分な考慮が必要である。腫瘍に対する治療終了後少なくとも1年~1年半は再発がないことを確認し,担当医と相談の上,治療開始時期を決定する。
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