【現在のDICの診断基準は,細菌感染によるものを想定している。しかし,ウイルス感染に起因するDIC研究の進歩に伴い,別途,診断基準が必要になるかもしれない】
重症感染症に合併したDICの場合,炎症反応によりフィブリノゲンが上昇します。そのため,DICと考えられる症例であれば,フィブリノゲンはまず低下しません。つまり,DIC診断基準の中にフィブリノゲンが含まれていますと,DIC診断の感度が低下することになります。最も新しいDIC診断基準である,日本血栓止血学会による「DIC診断基準 2017年版」(旧厚生省DIC診断基準の改良版)1)では,この点に配慮して,感染症型では診断基準からフィブリノゲンが削除されました。
今回のご質問は,同じ感染症でも細菌感染症とウイルス感染症とではDIC病態に違いがあるのか,そして診断方法に違いがあるのか,ということかと思います。DICを熟知されておられるベテラン医師による素晴らしいご質問かと存じます。
実は,上記診断基準での感染症は,細菌感染症を想定しています。細菌感染症では,リポ多糖(LPS)や炎症性サイトカインの作用により,血管内皮や単球/マクロファージから組織因子の産生が亢進して,著しい凝固活性化を生じます。一方,血管内皮細胞から線溶阻止因子であるプラスミノゲンアクチベータインヒビター(PAI)の発現も亢進するため,線溶に強いブレーキがかかり,微小血栓が多発しても血栓を溶解しがたい「線溶抑制型DIC」となります。臨床的には,虚血性臓器症状は前面に出てきますが,出血症状は比較的少ないものです2)。
しかし,同じ感染症でも,ウイルス感染症では事情が異なるようです。感染症型DICの基礎研究,臨床研究では細菌感染症をターゲットとしたものが多く,ウイルス感染症を想定した研究はほとんどありません。ただし,たとえば,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症例ではDICを合併することがありますが,血栓症が多発した線溶抑制型DICの病型から,ある日突然のように,致命的な出血がみられる線溶亢進型DICに病型が変貌することがあるようです(図1)2)~6)。このあたりは,フィブリノゲンの診断基準への再掲載の検討も含め,今後の重要な研究テーマではないかと思います。
つまり今回の,DIC診断基準の本質を突くご質問に対しては,「現在のDIC診断基準では,感染症は細菌感染症を想定しているが,ウイルス感染症に起因するDIC研究の進歩に伴い,別途,診断基準が必要になるかもしれない」という回答とさせていただきます。
【文献】
1)日本血栓止血学会:DIC診断基準 2017年版. 2017.
https://www.jsth.org/guideline/dic診断基準2017年度版/
2)朝倉英策, 編著:臨床に直結する血栓止血学. 改訂2版. 中外医学社, 2018.
3)Asakura H:Int J Hematol. 2021;113(1):10-4.
4)Asakura H, et al:Int J Hematol. 2021;113(1): 45-57.
5)Asakura H, et al:Lancet Respir Med. 2020;8 (12):e87-8.
6)Yamada S, et al:J Atheroscler Thromb. 2021;28 (4):402-3.
【回答者】
朝倉英策 金沢大学附属病院高密度無菌治療部 病院臨床教授
山田真也 金沢大学附属病院血液内科