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[緊急寄稿]「オミクロン株は軽症」は誤り―“世界の優等生”諸国ではオミクロン株が大流行(菅谷憲夫)

No.5114 (2022年04月30日発行) P.32

菅谷憲夫 (慶應義塾大学医学部客員教授,日本感染症学会インフルエンザ委員,WHO重症インフルエンザ治療ガイドライン委員)

登録日: 2022-04-14

最終更新日: 2022-04-26

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“世界の優等生”諸国で記録的な感染爆発

厳しい入国制限,検疫,マスク着用の義務,レストランの閉鎖などを実施した香港,韓国,シンガポール,ニュージーランドなどは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数と死亡者数が欧米に比べて格段に少なく,“世界の優等生”とされてきた。ところが,オミクロン株出現後,それらの国で軒並み大規模な感染拡大が起き,新規患者数で欧米を上回るという,予想もしなかった事態となった。

図1 1)では,人口100万人当たりの1日の新規患者数を香港・韓国・日本と,フランス・米国で比較した。2022年3月4日に香港で8800例,3月17日に韓国で7900例の新規患者数となったが,これは,2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して,1日の新規患者数としては世界1・2位の記録である。わが国の総人口,約1億2500万人に換算すると,1日に100万例前後という,非常に多数の患者が発生したことになる。一方,英国,フランス,ドイツなど欧米諸国では,2022年1月26日のフランスの5400例が最高であった。米国については,大流行による厳しい社会情勢などがわが国でもしばしば報道されてきたが,実際は全流行期間を通じて2022年1月14日の2400例が最高の新規患者数であり,現在はわが国を下回っている。

  

さらに深刻な点は,“軽症”とされたオミクロン株の流行ではあるが,香港と韓国では死亡者数も増加したこと,特に香港では驚異的な新規死亡者数を記録したということである(図2)1)。人口100万人当たりの1日の死亡者数が,香港では2022年3月15日に38例,韓国では3月27日に7例となった。香港のこの死亡者数は,2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して世界最高と考えられ,わが国の総人口に換算すると1日に4800例死亡したこととなる。

わが国では低レベルの新規感染者数が続く

一方,“世界の優等生”の一角であるわが国では,2022年3月21日をもって,まん延防止等重点措置が全解除されたが,オミクロン株の新規感染が終息する気配はない。わが国では一時,患者数は増加したが(2月13日,100万人当たり680例),韓国,香港,シンガポール,ニュージーランドと比較して,なお低レベルを保っている。しかし,わが国の10倍以上の患者数に達した香港や韓国などの流行拡大を見ると,油断できないことは明らかである。わが国の100万人当たりの1日の死亡者数のピークは,2月28日の1.9例であった(図2)1)

“オミクロン株は軽症”は誤解

わが国では,“オミクロン株によるCOVID-19の症状は,デルタ株に比べて軽症”という考えが定説となっている。現在も国内全体で依然として1日に4~5万人の新規患者数が続いているが,この定説もあり,まん延防止等重点措置は全解除された。

しかし,本当にオミクロン株は軽症ですむか,については疑問がもたれている。ワクチン接種率が向上し,加えて自然感染による免疫保持者が増加したため,重症化防止効果が出ているので,患者数増加に比べて重症者数が少なく,軽症化したように見える,という意見が強い。ゆえに最近では,“オミクロン株は軽症”という説は否定的となっている2)。その根拠は,“世界の優等生”の代表であった香港で,オミクロン株が大流行を起こしたが,ワクチン接種を受けていない高齢者が多数死亡したことにある。この香港での死亡率は,2020年からのCOVID-19の全流行期間を通して,欧米諸国のピークをはるかに上回るものとなった3)。結論として,免疫のない状態で感染すれば,オミクロン株でもデルタ株と同様に重い症状を呈すると考えられる(図2)1)。わが国では,“オミクロン株は軽症”という認識が拡散していることにより,ワクチン接種をはじめとした感染対策を軽視しがちなのが問題である。

英国,フランス,ドイツなどの欧米諸国では,感染力の強いBA.2変異株4)の出現とともに,最近では新規患者数が再び増加傾向にある点にも,注意が必要である。欧米では,経済的・政治的な理由で入国制限やマスク着用義務などを中止し,レストランやパブなどの営業を再開していることや,BA.2変異株の強い感染力が影響していると考えられる。

“優等生”諸国では免疫が弱い?

今までに多くの患者が発生した欧米諸国では,2022年4月1日時点で,人口100万人当たりの累計患者数の全人口における割合は,フランス38%,英国31%,米国24%などと,高率である(図3)1)。一方,オミクロン株出現前まで患者数を抑えてきた“優等生”諸国では,2021年12月時点での累計患者数は,人口の0.2~4.8%とかなり低率であった。しかし,オミクロン株出現後は,感染者の割合は急速に増加して,韓国は27%と米国を追い越し,シンガポールは20%,香港も15%と大幅に増加し,もはや欧米諸国と大差がない(図3)1)。一方,わが国は5%と,依然として奇跡的に低率である。


“優等生”諸国での,最近のオミクロン株による驚くべき流行拡大は,ウイルスの感染力が強いということがある一方,ワクチンの発病防止効果が低く効果が持続しないことも,原因にある5)。また,皮肉なことに,“優等生”諸国内では国民の感染が抑えられて,感染による免疫を持つ人の割合が低かったことも,流行拡大に関与したと考えられる。ワクチンにより得られた免疫の減衰は早いと思われるので,わが国でも感染者の割合が,今後人口の5%から,2倍(10%),3倍(15%)と大幅に増加する可能性は高い。これは,香港,韓国,シンガポールなどで,実際に起きた,流行拡大の経緯である(図1)1)

わが国は今どのような対策をとるべきか

筆者は,以下の対策を早急にとるべきと考えている。

【ワクチン】

自然感染による免疫を保持する人々の割合が,人口のわずか5%であるわが国では,3回目,4回目のブースター接種の重要性が高い。今後の4回目接種のタイミングについては,高齢者や重症化リスクの高い持病のある人で3回目接種から4~5カ月後,医療関係者で6カ月後をめどに接種するのが望ましい,とされている6)

【マスク】

エアロゾル感染が常識となったCOVID-19では,手洗いなどに比べて,マスク着用が感染防止に一段と重要となった。特に,高齢者や重症化リスクの高い持病のある人は,サージカルマスクではなく,高機能のN95,KN95,KF94などのマスクを用いるべきである7)8)

【検査】

PCRなど検査体制の遅れは,わが国のコロナ対策の大きな欠陥であった。わが国では,世界で最もインフルエンザ迅速診断を使用しているのであるから,同じ原理であるイムノクロマト(immunochromatography)法を利用したCOVID-19抗原定性検査の普及が望まれるところである。唾液を検体とした抗原検査も開発されたので,無症状感染者の多いCOVID-19では,自主検査による早期診断の有用性は高い。

【経口薬】

インフルエンザのオセルタミビル同様に,経口薬開発による,早期治療の確立が必要である。
これらの対策を充実させながら,慎重に制限解除を進めなければ,わが国でもBA.2変異株による大流行に見舞われる可能性が高い。それは,3月に香港,韓国が実際に経験したところである。

【文献】

1)Our World in Data:https://ourworldindata.org/

2)The New York Times:The Next Covid Wave Is Probably Already on Its Way(Mar. 22, 2022).
 https://www.nytimes.com/2022/03/22/opinion/covid-surge-prep.html

3)The New York Times:Why Omicron Is So Deadly in Hong Kong(Mar. 18, 2022).
 https://www.nytimes.com/2022/03/18/opinion/omicron-created-a-perfect-storm-in-hong-kong.html

4)Takashita E, et al:N Engl J Med. 2022;386(15):1475-7.

5)菅谷憲夫:医事新報. 2022;5100:28-31.

6)Regev-Yochay G, et al:N Engl J Med. 2022;386(14):1377-80.

7)菅谷憲夫:医事新報. 2022;5102:34-9.

8)CDC:Types of Masks and Respirators(Updated Jan. 28, 2022).
 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/prevent-getting-sick/types-of-masks.html

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