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心血管疾患リスク評価と血管障害[内科懇話会]

No.5117 (2022年05月21日発行) P.36

司会: 山科 章 (東京医科大学医学教育推進センター特任教授)

演者: 冨山博史 (東京医科大学循環器内科学分野教授)

登録日: 2022-05-23

最終更新日: 2022-05-18

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  • 【司会】山科 章(東京医科大学医学教育推進センター特任教授)
    【演者】冨山博史(東京医科大学循環器内科学分野教授)

    imaging biomarkerは心疾患のリスク評価には有用であるが,治療効果の指標として使用することには限界がある

    脈波速度と内皮機能はリスク評価指標としても治療効果指標としても有用性が確認されつつある

    健康診断に脈波速度検査を追加すれば,さらに約2割の動脈硬化ハイリスク患者を洗い出せる可能性がある

    脈波速度検査では,脈波速度の数値だけでなく上腕血圧の左右差と足関節上腕血圧比をみることも重要である

    ◉ 治療効果指標としてのimaging biomarkerの限界

    心血管疾患は,高血圧や糖尿病などが危険因子となります。2017年に発表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」では,こうした危険因子を点数化することよってリスク評価を行い,同じ脂質レベルでもリスクの高い人には,より積極的な治療を行うことを推奨しています。ただ,昔から言われていることですが,健康診断で得られる情報のみでは,2~3割は過剰または過小なリスク評価がされてしまうため,リスク評価の精度を上げる必要がありました。

    そこで最近,日本循環器学会でも“imaging biomarker”という病態情報を映像化し治療効果や治療戦略の指標にする試みによって「目でみて血管の障害を評価し,診療することでリスクを軽減させること」が,心疾患の予防には特に重要ではないかということが討議されています。imaging biomarkerの代表例は頸動脈の超音波です。たとえば動脈硬化・粥状硬化は,危険因子の進展とともに悪化しますが,頸動脈の超音波を使えば可視的に血管の障害の重症度を評価できます(図1)。

      

    「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」のリスクチャートである「吹田スコア」とimaging biomarkerである「超音波検査頸動脈病変」をメタ解析で比較してみると,予後指標としての精度に差はほとんどありません。つまり,健康診断で情報が得られれば,頸動脈の所見が加わったとしても,それ以上の情報が十分に得られるとは言えない状況です。ただ,冠動脈疾患に限定すると,Framingham risk scoreや吹田スコアなど,健診で得られる情報よりも,imaging biomarkerは明らかに動脈硬化のリスク評価に有用であることが確認できます。2013年に発表された欧州高血圧ガイドラインでは,「粥腫や冠動脈の石灰化の評価はリスク評価には有用かもしれないが,病態の改善にはつながらない」つまり,「診断の指標にはなるが,治療効果の指標として使用するには限界がある」ということが言われています。

    そこで注目されているのが,脈波速度や内皮機能の検査です。これらが問題点を克服し,補追できる指標になるのではないか,と期待されています。いわば,形態の評価から機能の評価へと考え方が変化したのです。

    ◉ 脈波速度検査

    現在,わが国で血管機能の検査として多く行われているものには,「内皮機能の検査」と血管の硬さをみる「脈波速度検査」があります。内皮機能も脈波速度も,血圧と脂質代謝異常の治療や,禁煙などの生活習慣の改善によって明らかに改善することが知られています(表1)。筆者らの教室では,内皮機能の検査に関する研究として,15施設での多施設共同研究「FMD-J研究」を行っています。また,脈波速度検査に関しては,「J-BAVEL研究」という10施設での多施設共同研究を行っています。


    脈波速度検査では,四肢に血圧のカフを巻くだけで血管の硬さを評価します。動脈硬化が進んでいないか,つまり血管が硬いか・柔らかいかをみます。たとえば,収縮期の大動脈はMR(magnetic resonance imaging)でみると大きく膨らみます。大きく膨らむ血管は,柔らかいです。血管が膨らむと心臓からの脈動はゆっくり伝わります。しかし,リスクが蓄積し加齢に伴って血管が硬くなると,膨らむ力が落ち,脈動の伝わる速度は早くなります。心臓から出た脈動が末梢にゆっくり伝わる柔らかい血管では血管障害は少ないのですが,脈動が早く伝わっている場合,血管は硬くなっており障害が生じている,と考えられます。脈の伝播する速度から,血管の障害の度合いを評価する指標が「脈波速度」です。脈の伝播する速度は,時間と距離から簡単に算出できます。目安として,脈波速度が1800cm/秒を超えると硬い血管,1400cm/秒前後であれば柔らかい血管と考えられます。

    では,脈波速度がリスク診断指標(予後診断指標)として使えるかというと,エビデンスを求めるためには,メタ解析が非常に重要となってきます。

    ◉ J-BAVEL研究

    メタ解析を行うにあたり,筆者らはJ-BAVEL研究という多施設共同研究を立案・実施しました。ここで大事なことは,頸動脈の超音波の精度は,吹田スコアといった「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」で示されているリスクスコアとほぼ同じで,それらを凌駕するだけの予後予測能は持っていないということです。

    J-BAVEL研究では,脈波速度がそれらのリスクスコアよりも予後予測能が高いかどうかを確認しました。そのために,わが国で実施された15の前向き研究について,実施施設から脈波速度と予後のデータを集め,再解析を行いました。2万人以上の患者のデータから十分に信頼性があった1万5000人のデータシートをつくり,これを統計解析の専門チームが解析したところ,脈波速度の数値が高くなれば高くなるほど,心疾患・脳卒中のリスクが有意に高まることが確認できました。

    この集団で家族歴を集めることはできなかったため,Framingham risk scoreと対比することにしました。すると,脈波速度はFramingham risk scoreに比べて有意に有用なリスク指標であることを確認することができました。層別解析を行うと,Framingham risk scoreの低い人・高い人ともに,脈波速度の数値が高くなると心疾患・脳卒中の発症リスクが高まることが確認できたのです。特に重要な点は,Framingham risk scoreのリスクの低い人,すなわち,健診を受けた人においてよりリスク評価の精度が高まったことです。現在,すべての健診において血管障害のバイオマーカーを使用することはできませんが,脈波速度の測定をオプションに加えることの妥当性を支持する結果ではないかと考えています。

    このメタ解析で集めた1万5000人のデータをもとに,基準値をみてみることにしました。Youden indexという方法を用いROCカーブを描くと,一般住民では約16m/秒,すなわち,脈波速度で約1600 cm/秒がリスクの指標になると考えられました。また,高血圧患者では約1800cm/秒(18m/秒)を基準値として取ることができました。以上から,脈波速度は多くの診断指標として有用であり,予後改善への活用法を模索すべき段階にあると考えます。

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