プリオン病は100万人に1~2人の罹患率を有する希少疾患である。人獣共通感染症であるとともに,神経変性疾患でもあり,孤発性,遺伝性,獲得性の3タイプに分類される。ヒトプリオン病には,(孤発性,遺伝性,獲得性)クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD),ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病(GSS),致死性家族性不眠症(FFI)がある。獲得性CJDの中には,ヒト硬膜使用手術後CJD(dCJD)や変異型(vCJD),クールーなどがある。
亜急性に進行する認知症に加えて,小脳症状・視覚異常,錐体路徴候・錐体外路徴候,ミオクローヌスなどの症状が出現し,無動性無言の状態から死に至る。頭部MRIの拡散強調像(DWI)の高信号が皮質,基底核に観察される。脳波で周期性同期性放電(PSD)が認められることが多い。髄液の14-3-3蛋白や総タウ蛋白,異常プリオン蛋白を測るRT-QuIC検査,プリオン蛋白遺伝子(PRNP)検査が有用である。確定診断は,病理検査・western blot検査で行われるので,剖検の施行が重要である。孤発と思われたものでも遺伝子変異がある症例(V180IやM232Rなど)も多く,遺伝子検査も必要である。
プリオン病は進行性の致死性疾患である。進行を止めたり遅延させたりする疾患修飾薬はない。他の治療可能な疾患を除外することがまず重要である。PSDがなく,RT-QuIC陰性だからといってプリオン病を除外しない。稀ではあるがRT-QuIC偽陽性の症例もある。臨床症状が認知症だけで経過がゆるやかなタイプもあり,遺伝子検査や髄液検査,脳波,画像検査などを行って,総合的に診断することが重要である。診断がなされた例では,運動症状についてはリハビリテーションが関節拘縮を予防するために効果がある。嚥下障害が進み経口摂取困難となったときには,経鼻胃管が広く用いられている。5類感染症として保健所への届け出,特定疾患申請についての助言,その他のサービスの申請への助言・協力も必要である。
ミオクローヌスのコントロールには,抗てんかん薬でのクロナゼパムやバルプロ酸が使用される。
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