消化管への病原体の感染により,発熱,下痢,腹痛,嘔吐などの症候を呈する。免疫抑制状態にない成人の場合は,ウイルス性と細菌性が大半を占める。また免疫抑制状態にある患者や抗菌薬使用後のケースにおいては,時にClostridioides difficile(以前はClostridium difficileと呼ばれていた)腸炎(CD腸炎)やサイトメガロウイルス腸炎などの鑑別が問題となる。
急性発症の発熱,下痢,腹痛,嘔吐などの病歴から鑑別する。感染性腸炎が疑われる場合には,便培養検査を行い,免疫抑制状態や先行する抗菌薬使用に該当する場合にはCD腸炎の鑑別のため,CDトキシンやglutamate dehydrogenase(GDH)抗原を検査する。周囲の感染症の流行状況や,食物摂取歴も入念に聴取する。ノロウイルスは冬季に流行する代表的な病原体で,潜伏期間は24~48時間程度で嘔吐・下痢を主症状とし,抗原検査が可能であるが,成人の保険適用は,①65歳以上,②悪性腫瘍患者,③臓器移植後患者,④抗癌化学療法ないし免疫抑制治療を受けている患者,のいずれかに該当する場合に限られる。細菌性腸炎は,便培養検査と食物摂取歴から主に診断する。
感染性腸炎が疑われる場合には,まず飲水の可否や脱水の有無を評価し,脱水があれば経口補水液や補液による脱水の是正を積極的に行う。感染性腸炎の多くは,対症療法のみで自然治癒するため,エンピリックな抗菌薬治療が必要な症例は限定される。具体的には,脱水により循環動態が不安定な症例や高熱・悪寒戦慄などの菌血症を疑う徴候がみられる場合,免疫抑制状態にある場合,渡航者下痢症,その他合併症のリスクの高い場合(人工血管や人工関節などの置換術後の症例など)にはエンピリックな抗菌薬治療を考慮する1)。
早期のカンピロバクター腸炎や細菌性赤痢,渡航者下痢症においては,適切な抗菌薬投与による有効性が報告されている一方で,サルモネラ腸炎においては,逆に菌の排出期間を延長させる可能性も示唆されている。また,腸管出血性大腸菌に対する抗菌薬投与は,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)の発症リスクを増すという報告と,発症頻度には差がないとする報告があり,一定の見解が得られていない1)。
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