下肢の静脈うっ滞によって引き起こされる皮膚障害の総称である。静脈うっ滞の原因として下肢静脈瘤や深部静脈血栓症が挙げられる。下肢静脈瘤は表在静脈の弁不全による一次性静脈瘤と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)など深部静脈の閉塞により生じる二次性静脈瘤に大別される。皮膚障害は皮膚炎,脂肪織炎,潰瘍の順に重症化し,難治となる。
下肢静脈瘤の場合,立位や坐位で確認できる表在静脈瘤を伴い,皮膚症状は下腿遠位1/3から足背にかけて好発する。びまん性の色素沈着とともに,湿疹性病変や潰瘍を生じる。軽症例では浮腫を伴うが,重症化し脂肪織炎が生じると線維化により硬化性の萎縮した局面を形成し,浮腫は目立たなくなる。DVTの場合,大腿から下腿にかけてびまん性の著明な浮腫を生じる。
下肢静脈瘤の確定診断では,立位や坐位において,カラードプラーエコー検査での静脈不全の確認が必要である。DVTの診断には下肢静脈造影検査や造影CTも有用である。
うっ滞性症候群の治療の基本は圧迫療法である。静脈うっ滞がその本態であるため,圧迫療法なしに局所治療だけを行っても改善は得られない。圧迫療法に際し,末梢動脈閉塞疾患(peripheral arterial disease:PAD)の有無や心不全の有無は必ず確認する必要がある。PADを伴う場合は,圧迫療法により下肢虚血を増悪させる可能性がある。また,心不全を伴う場合は,圧迫療法による静脈還流量の増加により右心負荷が増え,心不全を悪化させる可能性がある。これらの基礎疾患を伴う場合には,当該科との連携を密に行わなければならない。
さらなる治療方針決定には,一次性静脈瘤によるものか,あるいは二次性静脈瘤やDVTによるものかの鑑別が重要である。一次性静脈瘤に対しては,高位結紮術や抜去切除術などの古典的外科治療,レーザーや高周波による血管内焼灼術(endovenous thermal ablation:ETA),瞬間接着材シアノアクリレートを用いた血管内塞栓術(cyanoacrylate closure:CAC)などが適応となるが,近年はETAやCACによる治療がその大半を占める。二次性静脈瘤やDVTによる場合は,厳格な圧迫療法とともに,深部静脈への治療を同時に進める必要がある。
一次性静脈瘤に対するETAやCACには複数の慎重適応,禁忌がある。両者の共通した慎重適応として,DVTの既往,若年者,多発性あるいは再発性の急性期表在静脈血栓症(SVT),先天性・後天性血栓性素因が挙げられる。急性期のDVTやSVT,歩行困難,妊娠,授乳婦,全身状態不良では両者とも禁忌である。さらにCACではこれらに加え,感染症合併例,自己免疫疾患,肉芽腫性疾患,シックハウス症候群の既往,まつ毛エクステンションや人工爪の施術者は慎重適応となり,シアノアクリレート系接着材に対するアレルギー歴があれば禁忌となる。
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