中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome:MERS)は,2012年に初めて症例が確認された新規コロナウイルスによる感染症であり,原因ウイルスはMERSコロナウイルス(MERS-CoV)である1)。MERSは動物由来ウイルス感染症であり,MERS-CoVの宿主はヒトコブラクダである。中東を流行地として流行を繰り返している。中近東の人々はヒトコブラクダと関係の深い生活を送っていることから,MERSはこれからも流行を繰り返す。根絶も不可能である。
世界保健機関の報告(2021年8月3日の発表)では2574人の患者が確認されている(https://www.who.int/images/default-source/health-topics/mers-cov/global-mers-cases-2021-08-03.jpg?sfvrsn=48d4d177_4)。MERS患者の致命率は約40%である。2014年には中東から入国した患者が感染源となり,韓国国内で院内感染が多発し大きな流行が発生した。
MERSの潜伏期間は2~15日である。発熱,咳嗽,呼吸困難が主な症状で,そのほか喀血,胸痛,筋肉痛等が認められる。さらに消化器症状として腹痛,吐気・嘔吐,下痢がそれぞれ約20%の患者で認められる。男性に多く,50歳以上の患者が全体の75%である。しかし,若い年齢の患者および死亡例も認められる。発症後数日で呼吸器症状が増強し,呼吸困難,酸素飽和度の低下が出現し,画像診断(胸部CTや胸部X線写真)で重症肺炎像が認められる。
流行地である中東から帰国した重症呼吸器症状を呈する患者,および,その患者との接触者が肺炎等の症状を呈した場合にMERSを疑う。感染症法では2類感染症に指定されている。MERSを疑う患者を診た場合には,最寄りの保健所に相談する。
診断にはMERSの遺伝子を検出するためのRT-PCR検査,急性期と回復期におけるMERS-CoVに対する抗体価の有意な上昇を確認する必要がある。検査は地方衛生研究所または国立感染症研究所で実施される。MERSが疑われる患者は高度医療機関に紹介,搬送する。
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