声帯麻痺は,迷走神経やその分枝である反回神経の障害により,声帯の内転・外転運動が障害された状態を指す。原因として甲状腺癌,肺癌,食道癌などの悪性疾患,頸部や胸部の術後性,胸部大動脈瘤,挿管性,特発性などがある。これらの原因疾患を見逃さないことと,症状に応じた適切な対応が重要である。
一側性麻痺では嗄声,両側性麻痺では呼吸困難をきたすことが多い。一側性麻痺で誤嚥をきたすことは少ないが,両側性麻痺で特に声帯が外側位の場合は誤嚥をきたしやすくなる。
喉頭内視鏡検査で声帯の運動障害(固定)を認めれば,声帯麻痺を疑う。ただし,声帯固定をきたす疾患には披裂軟骨脱臼や後部声門固着があるので鑑別が必要であり,必要に応じて喉頭筋電図検査を行う。手術で反回神経を明らかに損傷した場合など,原因が明確なときは筋電図検査を行う必要はないが,反回神経が温存された状況で声帯の運動障害を認めれば,早期に声帯筋の筋電図検査を行うことで,脱臼や固着との鑑別が可能である。
挿管性,特発性,あるいは術後性でも反回神経が明らかに温存されている場合は自然回復が見込まれるので待機する。自然回復期間の目安は6カ月である。6カ月を過ぎても改善がない場合は,音声改善のための治療を検討する。
反回神経の損傷が明らかで自然回復が見込まれない場合は,速やかに音声改善治療を検討する。
呼吸困難があるときは,原因にかかわらず気管切開を考慮する。その後は一側性の場合と同様でよい。両側性だからといって,必ずしも呼吸困難をきたすわけではないので,呼吸困難がなければ気管切開をする必要はない。
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