末梢動脈疾患(peripheral artery disease:PAD)の大半は,下肢動脈における動脈硬化が原因であることから,閉塞性動脈硬化症と同義語として扱われる。症状は,無症状から歩行時の臀部や大腿下腿の痛みを自覚する間欠性跛行,安静時痛や潰瘍壊死を呈する重症虚血肢まで幅広い。動脈硬化を基盤としていることから,心筋梗塞や脳梗塞,死亡が5年で20~30%に認められる。下肢症状増悪は20%,重症化は10%である1)。
安静時または運動負荷時の足関節上腕動脈血圧比(ankle brachial index:ABI)が0.9以下であればPADと診断される。また糖尿病や透析患者では,下腿動脈の石灰化によって足関節血圧が正確に測定できないことが多く,ABIが見かけ上高値になることがある。そのような場合には,皮膚灌流圧や経皮酸素分圧を測定する。血管病変の局在診断は,非侵襲的検査法(血管エコー,MRA,CTA)や血管造影によって行う。PADは慢性の経過を示すことから,下腿筋萎縮や足趾脱毛の有無なども診断の一助となる。発症様式や心房細動合併などを参考に,急性または亜急性下肢虚血との鑑別も大切である。
間欠性跛行は内科的治療を優先する。禁煙指導,抗血小板薬投与,危険因子是正を行った上で,臨床経過から血行再建の必要性を判断する。重症虚血肢では大切断が差し迫っていることから,できるだけ早期に血行再建を考慮する。
心脳血管イベント予防を目的として,アスピリンやクロピドグレルを投与する。危険因子是正のために,スタチンやACE阻害薬なども考慮する。シロスタゾールは間欠性跛行に適応がある。しかし,心拍数増加作用のために心不全を有する場合には禁忌であり,狭心症の誘発,頻脈,動悸,頭痛などを認める場合や,跛行改善効果を認めない場合には中止する。シロスタゾールを使用できない場合や重症虚血肢には,サルポグレラート(5-HT2遮断薬),ベラプロスト(PGI2誘導体)を考慮する。
血管内治療または外科的治療(バイパス術や血栓内膜剝離術)がある。症状の重症度,年齢,合併疾患,ADL,病変部位や形態,予想される予後や血行再建後の長期開存など総合的に勘案し,血行再建の有無とその方法を選択する。近年では,技術やデバイスの進歩により血管内治療の適応は拡大している。大動脈腸骨動脈はステント,大腿膝窩動脈はバルーン,ステント,薬剤溶出性デバイスの使い分け,下腿動脈はバルーン治療を行う。手技成功率は90%以上であるが,再狭窄率は大動脈腸骨動脈領域10%,大腿膝窩動脈領域30%,下腿動脈領域50%以上である1)。
間欠性跛行に対して適応がある。監視下運動療法が望ましいが,わが国では実施可能な施設が非常に少ない。在宅運動療法でもある程度の跛行改善効果が期待できる。
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