LDL-C高値に伴う冠動脈疾患(CHD)発症リスクの上昇は、日本人でも認められており、先ごろ公表された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」にも記されている。一方、脳出血リスクは、LDL-C値との逆相関が「茨城県健康研究」において示唆されている(後出)。同研究の対象は健康診断受診地域住民だったが、先ごろ同様の結果が別集団で検討した研究からも報告され、話題となっている。7月13日にJ Atheroscler Thromb誌がHP上で公開した「愛知職域コホート研究」だ[J Atheroscler Thromb. 2022, http://doi.org/10.5551/jat.63519]。概略を紹介したい。
今回の解析対象は、1997年以降の中部地方自治体勤務者中、心血管系(CV)疾患既往がなく、観察開始時LDL-C値が明らかだった8966名である。平均年齢は45.6歳、男性が79%を占め、LDL-C平均値は124.6mg/dLだった。なお、脂質低下薬服用例は3.0%のみだった。
これら8966名を12年間(中央値)観察したところ、2.3%(204名)がCV疾患を発症した。そこで観察開始時LDL-C値と各種CV疾患リスクの関係を検討したのだが、本研究ではLDL-C値各群間の背景因子を調節するために、IPW (inverse probability weighting)という手法を用いている。ある治療を受ける確率(傾向スコア[その治療に関連する背景因子を反映])の逆数で各群を重み付けすることにより、両群間の背景因子バランスを取る手法である。原著者らによれば、日本人のLDL-CとCV疾患の相関検討で、IPWが用いられたのは初めてだという。
その結果、LDL-C値と「CHD・脳卒中」発生リスクの間には有意な正相関が認められた(P=0.044)。また「CHD」のみでも、LDL-C値とリスクは正相関していた(P<0.001)。
一方、脳卒中では様子が少し異なった。まず「脳梗塞」リスクは、LDL-C値と正相関の傾向を示したが、有意とはならなかった(P=0.608)。さらに、「脳出血」リスクはLDL-C値と有意な逆相関を認めた(P=0.009)。全文が無料で公開されているので、ぜひグラフもご覧いただきたい。
本研究では「LDL-C低値」と「脳出血高リスク」の関係についての考察は記されていない。しかし先述の「茨城県健康研究」は、他研究の結果も引用した上で、断ずることは難しいとしながらも、LDL-C低値が脳出血リスク増加の原因である可能性を支持している[Circulation. 2009;119:2136 ]。
なお同研究(9万1219名[脂質低下薬服用:2.5%]、10.3年観察[中央値])では、観察開始時LDL-C値「<80mg/dL」群で、LDL-Cがそれ以上だった3群のいずれと比較しても、脳出血死亡リスクが有意に高くなっていた(年齢・性別・CV危険因子補正後)。
「愛知職域コホート研究」は、科研費と厚労省グラントのサポートを受けて実施された。