今回はQRS電気軸を解説します。特定の心疾患や病態と1:1対応するわけではないものの,時に有用な“ヒント”となる所見です。
心電図の世界でよく使われるのは,“平均QRS電気軸”と言って,房室結節(より正確にはヒス束)を通過した後,心室筋に至るまで電気興奮が伝わっていく様子を1つの“矢印”で表現したものです。冷静に考えると,わりと大胆なコンセプトですよね?心室内の興奮伝播は3次元的な現象ですが,電気軸では,胸部X線画像と同じ冠状断(または前額断)上での向きが主に議論されます(mean frontal plane electrical axis)。
冠状断(前額断)において,心臓を中心とする円座標上に存在する肢誘導の位置関係を示します(図2)。各々の誘導の“方向性”は理解しておくべきで,Ⅰが心臓の真左に相当する「0°」の方向で,いわば“X軸”です。これに直交する方向で真下に向かうaVFの方向が「+90°」で,“逆Y軸”とでも言えるでしょうか*1。
この直交座標平面における4つの“象限”に名称を与え,①正常軸(0°~+90°),②左軸偏位(-90°~0°),③右軸偏位(+90°~+180°),④高度軸偏位(-180°~-90°)とします。④は,“③の延長”ととらえ,時に「+180°~+270°」などと表記しているケースもありますが,あまり推奨はしません(図1の角度表記を参照)。
*1 数学の世界(極座標)とは,角度の正負が逆方向ですが,正常心のQRS電気軸が左下方(0°~+90°)となるようにするためと思われます。