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タクシーを呼んでないのに,どうして支払いが発生するの![病院トラブル─事務方の解決法(11)]

No.5131 (2022年08月27日発行) P.64

大江和郎 (元東京女子医科大学附属成人医学センター事務長)

登録日: 2022-08-27

最終更新日: 2022-08-25

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病院でのトラブルの中には,医療従事者と患者とのトラブル以外に,患者と患者,あるいは患者と一般人とのトラブルもあります。原則,医療機関に関わるトラブル以外は,当事者同士に決着を委ねますが,やむをえず仲裁に入ることもあります。

 患 者  :先生に診察して頂いたおかげで,だいぶよくなりました。病院まで連れて来て頂き,ありがとうございました。

 付添人  :よかったですね。では,私が支払ったタクシー代の支払いをお願いします。

 患 者  :えっ! 私が支払うんですか? あなたが連れて来たんですよ。

 付添人  :まさか……。路上で苦しんでいるのを見かねて,わざわざタクシーを呼んで病院に連れて来たんですよ!

 患 者  :タクシーを呼んだのはあなたではないでしょうか? 私は呼んでほしいと一言もお願いしていません。だからタクシー代は支払いません!

正しい対応はどちら?

①患 者:わざわざタクシーを呼ばなくとも,救急車を呼ぶこともできたのではないでしょうか。また,私からタクシーを呼んでほしいと依頼したわけでもないので,支払いはしません。

②付添人:確かに,タクシーを呼んでほしいとの依頼はされませんでしたが,苦しんでいるあなたを見て,咄嗟にタクシーを止めて病院に連れて来たんです。善意で行ったことですが,タクシー代は支払ってもらいます。

事務長の見解

今回のトラブルは,法律で言うところの「事務管理」に該当します。事務管理が成立した場合,付添人の義務ではなく善意で行った行為であっても,患者にその行為の費用を請求することができます。したがって,②の付添人の言うことが,正しい対応となります。仲裁に入った際には事務管理の説明を行うとよいですが,納得されない場合には話し合いを打ち切り,弁護士に相談するようにアドバイスする等の対応となります。

詳しく解説すると……

1. 患者同士のトラブル

患者同士や患者対一般人とのトラブルも,医療機関では稀に発生します。たとえば,敷地内での車同士の接触事故,歩行者と車の衝突,車椅子の患者同士の衝突等です。医療機関としては,特に医療機関側に瑕疵がない限り,基本的には当事者同士の話し合いにより解決を図ってもらうようにしていますが,当事者同士で決着がつかない場合には,仲裁に入る場合もあります。

仲裁に入るに際して,まずやるべきことは互いの意見の食い違いを見きわめることです。争いの原因は当事者の言い分の食い違いであり,当事者双方の意見に食い違いがなければ揉めることはありません。民事訴訟では,争点整理という作業を行います。争点整理とは,どの点で意見が一致しているのか,どの点に意見の食い違いがあるのかを確認する作業です。意見の食い違う点を整理することで,迅速かつ効率的に揉め事が解消できます。

事例では,患者がタクシーを呼んで乗ったわけではないので,タクシーを呼んだ付添人が支払わなければならないという理屈になります。しかし,患者は路上で苦しんでいるところを,通行人が善意で呼んだタクシーで病院に行き,診察の結果痛みが治まったわけであり,そういう意味では恩恵を授かった患者が,タクシー代を負担するのが妥当という気がします。







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