胃酸過多に頻用されているプロトンポンプ阻害薬(PPI)だが、「認知症リスク上昇」の可能性が懸念されていた。基礎研究で、脳におけるアミロイドベータ(Aβ)産生亢進[Badiola N, et al. 2013.]などが報告されていたためである。しかしランダム化比較試験や小規模観察研究、症例対照研究では、認知症リスク増加を示唆する研究と否定する研究が混在していた。そこで今回、過去最大規模となる前向きコホート研究の解析を行ったところ、PPI常用に伴う認知症リスクの上昇が認められた。9月1日、BMC Med誌ウェブサイトで公開された論文を紹介したい[Zhang P, et al. 2022.]。
研究対象となったコホートは、UKバイオバンクである。英国在住で40~69歳時に任意登録した一般住民約50万人が、定期的に詳細な医学情報を提供している。今回は、50万1002名(平均:56.5歳、女性:54.4%)が解析対象となった。 PPI常用者(調査時過去4週間のほぼ毎日服用[自己申告])は、うち10.7%だった。
中央値9.0年間の観察期間中、2505例が認知症と診断された(うち37.2%はアルツハイマー[AD]型、20.9%が血管性)。
そこでPPIと認知症の関連を調べると、PPI適応の有無などを含む諸因子補正後も、PPI「常用」は「非服用」に比べ、認知症発症ハザード比(HR)は1.20の有意高値だった(95%信頼区間[CI]:1.07-1.35)。同様に、AD型認知症もHRは1.23(95%CI:1.02-1.49)、血管性認知症も1.32(同:1.05-1.67)と、有意なリスク上昇を認めた。
次にAD型認知症に限り、APOE ε4遺伝子型別に発症リスクを検討した。すると(意外なことに)、PPI常用で有意なリスク上昇を認めたのは、APOE ε4ホモ接合体例ではなく、ヘテロ接合体例だった(HR:1.40、95%CI:1.06-1.86)。原著者によれば、ホモ接合体例では、PPI常用によるAβ蓄積増加がマスクされてしまった可能性があるという。
もっとも原著者は、PPIの有用性を否定しているわけではない。本研究の背景には「適応外使用」や「不要な長期間処方」など[Zink DA, et al. 2005.]、不適切な使用実態への懸念があり、それらに対する警告という意味合いも強いようだ。
本研究は、私企業からの資金提供を受けずに実施された。