旋尾線虫症は,急性腹症や皮膚の線状爬行疹などを起こす食品媒介性の幼虫移行症である。成虫が不明だったため旋尾線虫Ⅹ型幼虫と呼ばれてきたが,近年の遺伝子解析によって主にツチクジラなどを宿主とするCrassicauda giliakianaの幼虫であることが明らかになった1)。
ヒトは中間宿主または待機宿主であるホタルイカ,タラ,ハタハタ,ホッケなどを生食することで感染するが好適宿主ではない。このため,旋尾線虫幼虫は生育することなく人体内を移動することで,上記の幼虫移行症の病態を示す。
ホタルイカの生食を原因とする旋尾線虫症が報告されたのは1987年以後だが,富山湾からの生ホタルイカの大都市への遠隔輸送の開始が契機と考えられ,実際,加熱(中心温度60℃以上)または冷凍(-30℃,4日間以上)などの幼虫不活化法の実施により,1995年には新規症例がほぼ報告されなくなった。ところが,近年,本症は再び増加している。ホタルイカの取り扱いが,富山湾以外の日本海側の港に広がり,新規業者が増加したことが背景にあるものとみられている。
生鮮ホタルイカ(特に内臓)の食歴の有無の聴取が重要である。季節的には3~8月がホタルイカの漁期となるため,この時期の急性腹症,皮下幼線虫移行症では鑑別診断に加えるべきである2)。
急性腹症:ホタルイカの摂食後数時間~数日で悪心・嘔吐,腹部膨満,腹痛で発症する。通常,腹痛は2~10日間持続し自然寛解するが,時に腸壁の肥厚や麻痺によるイレウスの病態をみる。
皮膚爬行症:線状皮膚爬行疹はホタルイカの摂食後1~4週間後に出現する。多くは腹部より始まり,数mm幅の赤色の線状皮疹が1日2~7cm伸長する。浮腫状の隆起や水疱形成もありうる。
アニサキスなどと比較して虫体のサイズがきわめて小さいため(体幅0.1mm,体長8.5mm以下),腸管粘膜に刺入した虫体の内視鏡による確認や摘出は困難である。
皮膚爬行症では,線状皮疹の先端部の組織生検による幼虫断端の検出,形態的特徴による同定が可能である。血液検査では好酸球増多,血清IgE上昇をみるが,感染早期には認めないこともある。免疫診断としては,研究目的での抗体検査が実施可能である。
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