慢性腎臓病(CKD)例の貧血治療薬として注目されているHIF-PH阻害薬だが、「造血系に特異的に作用する注射薬であるerythropoiesis stimulating agents(ESA)と異なり、経口薬で全身性の作用も伴う可能性がある」ため(日本腎臓学会HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation)、心臓血管系(CV)[Bishop T, et al. 2015]や腎[Schödel J, et al. 2019]への多様な作用も想定されている。
そこで北京大学(中国)のQiyan Zheng氏らはHIF-PH阻害薬が用いられたランダム化比較試験(RCT)のメタ解析を行い、ESA製剤・プラセボと比較したHIF-PH阻害薬の心腎安全性を検討した。11月14日掲載のAm J Kidney Dis誌論文から紹介したい。
Zheng氏らが解析対象としたのは、貧血を認める保存期CKDを対象に、HIF-PH阻害薬の心または腎保護作用を、ESA製剤あるいはプラセボと比較した23のRCT(1万5144例参加)である。
まず「心イベント」(含CV死亡)を評価した20試験(1万4561例)を併合した結果、ESA製剤群と比べたHIF-PH阻害薬群の発生率比(RR)は1.06(95%信頼区間[CI]:0.98-1.14)で有意差はなかった。バラツキの指標である“I2”も10%と低値だった。同様にプラセボ群との比較でもRRは1.02(0.89-1.16、I2:0%)と有意差は認めなかった。
なお個々の「心イベント」定義は、試験間で大きく異なっている。
次に「腎関連イベント」は22試験(1万3437例)で検討されており、HIF-PH阻害薬群におけるRRは対ESA製剤群で1.00(0.94-1.06)、対プラセボ群で1.09(0.98-1.20)だった(I2はいずれも0%)。なお「腎関連イベント」の定義は、「心イベント」同様、試験により大きな違いがある。
また「末期腎不全・透析導入」に限っても、RRは対ESA製剤群:0.99(0.91-1.08)と対プラセボ群:1.05(0.93-1.19)で有意差はなかった。
有害事象だが、「高血圧」(0.89)と「高カリウム血症」(0.92)リスクはHIF-PH阻害薬群とESA製剤群間に有意差はなく、「重篤な有害事象」(1.06)、「死亡」(1.01)も同様だった(カッコ内はHIF-PH阻害薬群におけるRR)。
ただし「薬剤関連重篤有害事象」に限れば(3試験、3595例)、HIF-PH阻害薬群における対ESA製剤群RRは1.48(0.89-2.45)だった。
なお「心イベント」については興味深い亜集団解析が示された。
すなわち、プラセボ群、ESA製剤群いずれとの比較においても、追跡期間が短い(52週未満)検討ではHIF-PH阻害薬群のほうが「心イベント」RRは低い一方、長期になると逆に高くなる傾向が認められた(交互性検定なし)。
原著者らは、慢性的HIF曝露による心筋障害の可能性[Moslehi J, et al. 2010]やHIF-1・エンドセリン系活性化によるCVへの悪影響を示唆する基礎研究[Belaidi E, et al. 2016]などをもとに、「HIF-PH阻害は短期間であればCV保護的に作用するが、長期間、あるいはHIF-PH過剰阻害下では逆に作用するのではないか」との仮説を提示し、HIF-PH阻害薬によるCV安全性にはさらなる検討が必要との考えを示している。
本解析は、中国国家機関からの資金提供を受けて実施された。