梅毒の原因微生物はSpirochaeta pallidumで,1905年にFriz SchaudinnとErich Hoffmannにより発見されました。その後,現在頻用されているTreponema pallidumに呼称が変わりました。
梅毒の歴史は,1492年にコロンブス一行が新大陸(アメリカ大陸周辺)から旧大陸(アジア,ヨーロッパ,アフリカ大陸)へもたらした,という説が最も有力です。日本ヘは,当時交流が盛んであった中国の「明」から,博多や堺の商人,琉球人が伝播させたと考えられています。現代とは異なり移動が大変困難な時代であったにもかかわらず,ヨーロッパへ持ち込まれ,わずか20年で世界中に広がりました。
典型的には第1期に硬性下疳,第2期に皮疹(主に手掌・足底,無痛性),脱毛,粘膜疹,ぶどう膜炎,リンパ節炎,全身症状などを認め,晩期梅毒ではゴム腫,心血管梅毒,神経梅毒などを認めます。感染拡大の原因のひとつは,無症候期(無症状だが感染力あり)の存在です1)。
国立感染症研究所の発表によると,梅毒の報告数は2022年10月23日時点で1万141人(図1)です。年間1万人を上回ったのは,5類感染症として全数把握が義務づけられた1999年以降初となります2)。
男性では20~50歳代を中心に幅広い年齢層に分布している一方,女性では20歳代が突出して多いです。また,異性間での感染が増加傾向と言われていますが,男性間性交渉者の間でも流行は継続しています2)。
治療の中心はペニシリン系抗菌薬です。これまで日本では,世界的な標準治療薬である筋注ペニシリン系抗菌薬ベンジルペニシリンベンザチン(BPB)が未承認であったため,経口ペニシリン系抗菌薬アモキシシリンで1日3回の服用を4週間継続するのが基本となっていました。しかし,2021年9月,BPBが日本でも承認され,早期梅毒なら1回,後期梅毒でも週1回×3回の筋注で治療が可能となりました。神経梅毒が疑われる場合は,ペニシリンやセフェム系抗菌薬セフトリアキソンの静注が必要です。
・梅毒は昔の病気ではなく,現在も感染拡大している感染症である。
・感染リスクがあればすぐに検査を行う(早期発見)。
・診断したら筋注ペニシリン系抗菌薬ベンジルペニシリンベンザチンなどですぐに治療を行う(早期治療)。
【参考文献】
1)Golden MR, et al:JAMA. 2003;290(11):1510-4.