風疹は,Matonaviridae科Rubivirus属のプラス一本鎖RNAウイルスである風疹ウイルスを原因とする比較的軽症なウイルス感染症である。飛沫や接触で感染し,潜伏期間は通常16〜18日程度で,発熱・発疹・頸部リンパ節腫脹を3徴候とする。15〜30%程度は不顕性感染であり,発症しても通常1週間程度で軽快するが,成人が感染すると症状が重くなり,関節炎や関節痛を伴うこともある。脳炎や血小板減少性紫斑病などの合併症はあるが,いずれも予後は比較的良好で,問題となるのは,妊娠20週頃までの妊婦が感染した場合に,胎盤を介してウイルスが胎児に感染して生じる先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome:CRS)である。
発熱とほぼ同時に融合傾向の少ない淡紅色の紅斑が顔面から出現し,全身へと広がる。発疹出現1週間前から,耳介後部や後頸部のリンパ節腫脹などを認めることが多く,発疹出現の前後1週間は感染力があるが,「三日はしか」という通称の通り3日程度で解熱し症状そのものは軽い。
診断に際しては,必ず母子健康手帳や医師の接種記録でMR(麻しん・風しん混合)ワクチンなど,風疹含有ワクチンの接種記録を確認する。2回の確実な接種歴があれば,風疹の可能性は非常に低くなる。不顕性感染であっても感染力を持ち,無症状者は時に25〜50%程度存在することもあるとも言われるため,風疹確定患者との濃厚接触の有無だけでなく,地域や職場,学校などでの流行状況などを考慮し,血清診断や遺伝子診断を行う。
風疹特異的IgM抗体が検出され十分高値であれば感染を証明できるが,初感染の場合,発疹出現後3日目までは特異的IgM抗体が検出限界に満たず,偽陰性となることがある。この期間は,咽頭拭い液,血液(EDTA血),尿などを検体として風疹ウイルス遺伝子検査を実施すると,発疹出現直後であるほど検出率が高くなる。血液からの病原体遺伝子検出率は早期に低下するが,咽頭拭い液と尿からは発疹出現後7日程度まで検出できることがあり,血清学的検査と遺伝子検査の両者を併用すると,より正確な診断に結びつく。
妊婦における風疹の診断は,必ず複数の検査法を用いて慎重に行う。前述の方法に加え,急性期と回復期のペア血清での抗体陽転あるいは有意上昇(HI法では4倍以上,EIA法では2倍以上)を確認する。胎児への風疹感染が疑われる場合には,出生時の臍帯血あるいは新生児の血液検体を用いて,風疹特異的IgM抗体を確認するとともに,咽頭拭い液や唾液,尿,血液検体などから病原体遺伝子の検出を試みる。
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