我々がCureApp社と実施した臨床試験・HERB Digital Hypertension 1(HERB-DH1)では,最も客観性の高いABPM(ambulatory blood pressure monitoring,24時間自由行動下血圧測定)による24時間収縮期血圧の12週後の低下を主要評価項目とし,臨床的に重要な家庭血圧の低下を副次評価項目とした(図5)4)。
本試験は医師による通常の生活習慣の指導を行い,家庭血圧をモニターする対照群を設定したオープンラベルの無作為比較試験である。ヘルスケアアプリの評価(試験)では対照群を置かないものが多いが,科学的エビデンスが必要とされる高血圧デジタル療法では,対照群を設定した臨床試験が不可欠である。その理由は,家庭血圧をモニターし,その結果を医師が説明するだけで血圧が有意に低下するからである。
これまでの家庭血圧のメタ解析では,家庭血圧をモニターするだけではほとんど降圧がみられないが,個別指導を加えることにより,家庭収縮期血圧は6.1mmHg程度低下することが知られている7)。
想定どおりというか,あまりの一致に驚いたが,HERB-DH1においても,家庭血圧を毎日モニターして生活習慣の改善指導を行う対照群では早朝家庭血圧が6.2mmHg低下した。しかし,高血圧デジタル療法(アプリ治療)群では,対照群に比し,さらに4.3mmHgの低下がみられ,ベースライン時から10.6mmHgの早朝収縮期血圧の低下が示された(図6)4)。
早朝家庭血圧の推移をみると,治療開始4週目から明確な血圧低下がみられ,12週目の主要評価時まで経時的に血圧が低下している(図7)4)。また,さらに降圧薬の開始が許可されている12週目以降においても,降圧薬が開始された人数は若干少ないにもかかわらず,2群の降圧差は維持されている。また,主要評価項目の24時間収縮期血圧と診察室血圧も2群で有意の降圧差がみられた。
12週目には体重と自己申告の食塩摂取スコアが低下しており,これらの低下度は降圧程度と相関していた。本アプリの利用率と家庭血圧測定率は共に98%を超えており(図8)4),大半の患者が本アプリを継続利用でき,本研究の質が高いことがうかがえる。
対照群を設置した無作為比較試験において,世界で初めて,アプリ治療により明確な降圧が得られることを示した意義は大きい。主要評価項目である24時間収縮期血圧を含むABPM血圧指標,家庭血圧,診察室血圧の,すべての血圧指標の低下がみられた。中でも,特に高血圧治療補助アプリで,早朝家庭収縮期血圧が10mmHg低下したことの意義は大きい。
最近,アジアで行われた高齢者高血圧を対象とした無作為比較試験・STEP研究の早朝家庭血圧から推定した臨床効果は,急性冠症候群や脳卒中の21%,心不全の54%程度の抑制に相当する(図9)4)8)9)。近年,世界的にも,家庭血圧を高血圧治療の指針とすることが強調されている5)。しかし,近年の高血圧患者の治療状況でも,約50%以上が家庭血圧の治療目標である135/85mmHg未満を達成できていない。今後,高血圧治療補助アプリの臨床使用によって有意に早朝高血圧がコントロールされ,循環器イベントの抑制につながることが期待される。
本試験の成功により,世界的にも高血圧デジタル療法の研究開発が活発になっている。