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呼吸困難[私の治療]

No.5158 (2023年03月04日発行) P.40

竹内一郎 (横浜市立大学救急医学教室主任教授/同大学附属市民総合医療センター高度救命救急センターセンター長)

登録日: 2023-03-01

最終更新日: 2023-02-28

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  • 呼吸困難の患者の診察にあたり,まずなすべきことは「緊急度と重症度の判断」である。最初に患者の全身状態のA(airway)とB(breath)をチェックし,気管内挿管が必要か,緊急の脱気が必要か,Nasal High Flow療法や持続陽圧呼吸療法(CPAP)が有用かを判断する。同時に,原因疾患の鑑別とそれに対する個別治療とを同時並行で進める。近年は,肺炎や心不全,気胸にも超音波検査(エコー検査)が有用である。今後,低侵襲かつ迅速に診断が可能なエコー検査は救急の現場でもより広く用いられ,必須の技術・知識となるであろう。

    ▶病歴聴取のポイント

    呼吸困難を訴える症例で鑑別すべき疾患としては,細菌性肺炎・ウイルス性肺炎などの炎症性疾患,気胸(特発性や外傷後の肋骨骨折に伴うもの)や心不全の急性増悪,肺血栓塞栓症,COPDの急性増悪などがある。また,2020年2月に横浜港に停泊した豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号でのパンデミックから始まった新型コロナウイルス感染症〔SARS-CoV-2ウイルスによる感染症(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2:COVID-19)〕1)は,2022年8月現在,いまだに2類感染症扱いとなっていることから,隔離や保健所への発生届など,社会的な側面も配慮しながら進めなければならない。

    COVID-19による肺炎では過剰な自発呼吸による肺障害(patient self-inflicted lung injury:P-SILI)から呼吸不全が進行し,VV-ECMOの適応となる症例が多発した2)。デルタ株による日本のCOVID-19第5波で人工呼吸器やECMOが必要になった事案について,本稿では詳しくは述べないものの,呼吸困難を訴えるCOVID-19や肺血栓塞栓症患者にとってECMOは重要な治療法である。

    肺炎については,原因菌を同定し適切な抗菌薬を選択する上で,痰の性状,グラム染色,免疫抑制薬の内服歴聴取なども重要である。今後,社会の高齢化に伴って,心不全による呼吸困難,起坐呼吸のような急性増悪症例の激増が予想されるが,これには心疾患の既往歴,急性心筋梗塞や弁膜症を含めた聴取が不可欠である。気胸については,「突発的な呼吸困難」という発症様式がkeyとなる。肺血栓塞栓症は下肢の痛みや浮腫,長時間の同一姿勢保持(エコノミークラス症候群)などが特徴と言えよう。

    ▶バイタルサイン・身体診察のポイント

    バイタルサイン,身体診察で大事なのは,まず緊急に対応すべき徴候があるか,ということである。呼吸パターンが努力様であったり,呼吸補助筋を使って頻呼吸がみられれば,急激な病態悪化が予測されるため,迅速な対応が求められる。起坐呼吸を呈するのは心不全患者の特徴であるが,その際,体内水分ボリューム過多を反映して頸静脈怒張を認める。低心機能では交互脈を認めることがある。これらの所見によって,心エコーを施行する前から心不全による呼吸困難と予測できる。

    肺炎では聴診による湿性ラ音の部位診断が重要である。体幹前面のみではなく,背側の聴診も行い評価する。一方,気胸では呼吸音の左右差を認める。緊張性気胸では呼吸音の左右差に加えて,血圧低下,冷汗のショック徴候,そして頸静脈怒張や気管の偏位がみられる。これらの所見がそろっていれば心停止が迫っているので,胸部X線撮影の前に緊急脱気をしなければならない。

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