経皮的脳血栓回収術は急性期脳梗塞患者に対する高い治療効果が証明され,その治療において中心的な役割を果たしている。Merciリトリーバーから始まった血栓回収術のこれまでの軌跡を振り返り,近年の研究から得られた新しい知見を紹介する。
アルテプラーゼ静注療法はNINDS rt-PA Stroke Trialで有効性が示され,国内では2005年に発症3時間以内の急性期脳梗塞に対して承認された。脳主幹動脈が閉塞した患者は重い後遺症によって要介護状態となる例が多いが,アルテプラーゼは血栓を溶解して症状を消失させうる。それまでは症状がそれ以上進行するのを防ぐことが主であった脳梗塞治療において,これは画期的なものであった。2012年にはECASSⅢの結果をもとに発症後4.5時間まで適応が拡大された。
しかし血栓が大きな場合には,アルテプラーゼ静注療法によって再開通させることができる可能性は高くない。閉塞部位と再開通率について静注療法開始後に経頭蓋ドップラーを用いて調べた研究では,末梢枝である中大脳動脈遠位部の閉塞が完全に再開通する確率は30.8%であったのに対して,比較的大きな経である中大脳動脈近位部では16.3%,内頸動脈では3.8%に過ぎなかった1)。血栓回収術以前の血管内治療はカテーテルからウロキナーゼを動注する局所線溶療法があり,中大脳動脈閉塞に対する有効性が確認されていたが,これも近位主幹動脈の再開通は困難であった。
大血管が閉塞した患者ほど後遺症は重度で死亡率も高い。血栓回収術を施行したものの再開通できなかった内頸動脈閉塞患者は,日常生活が自立するのはわずか3%で,死亡は73%にも上ったという報告がある2)。この近位主幹動脈閉塞患者を救うべく血栓回収用カテーテルが開発された。
最初の血栓回収用カテーテルであるMerciリトリーバーは螺旋状の先端に3本のフィラメントを有し,国内では2010年に医療機器承認された。経皮的脳血栓回収術が急性期脳梗塞治療の新たな選択肢として加わり,再開通によって劇的に症状が改善する例が多く経験された。しかし,2013年に報告されたIMSⅢなど3つのRCTでは経皮的脳血栓回収術の有効性を示すことはできなかった。これは再開通率が低かったことと治療時間が長かったことが原因であったと考えられている。
続いて開発されたSolitaireTM(Medtronic),Trevo(Stryker)といったステント型血栓回収デバイスと,Penumbra systemⓇ(Penumbra)をはじめとする血栓吸引型デバイスの普及によって,血栓回収術の再開通率は向上し,再開通までの時間は短縮された。SolitaireTM,TrevoそれぞれについてMerciリトリーバーを対照群としたRCTが行われ,再開通率・転帰ともに優れていることが証明されている。
2008年に報告されたMerciリトリーバーを使用したMulti MERCI trial3)では平均手技時間が90分,再開通率が55%であったが,2021年のステント型デバイスと吸引型デバイスを併用したASTER2 trial4)ではそれぞれ42分,86.2%と大きく改善している。この新たなデバイスを用いて行われたMR CLEAN5)をはじめとした5つのRCTの結果が2015年に相次いで発表され,内科治療に対する経皮的脳血栓回収術の有効性が示された。これを受けてわが国でも,発症8時間以内の急性期脳梗塞患者に対して血栓回収術の施行が推奨されることとなった。