冠動脈粥腫の破綻に伴う血栓形成により冠動脈内腔が閉塞し,その末梢側心筋が虚血性壊死を生じる病態である。発症早期の再灌流療法は,予後を改善する確立された治療法であり,速やかに行うことが重要である。
典型的な症状は,15分以上持続する左前胸部や胸骨裏部の締め付けられる痛みであるが,時に顎,肩,腕,背部,心窩部などに症状を認めることもある。冷汗,嘔気・嘔吐,息苦しさなどの随伴症状を伴うことが多い。発症早期は心筋トロポニンなどの心筋バイオマーカーが上昇していないことも多く,採血結果を待つことなく,症状と心電図から診断・治療を開始する。
突然,致死的不整脈が生じることがあり,まず心電図モニターを装着する。心室細動では直ちに電気的除細動を行う。初期治療を行いつつ,一刻も早く再灌流療法を行うために,来院から30分以内に専門施設へ緊急搬送する。
冠動脈ステント留置の冠インターベンション(primary percutaneous coronary intervention:primary PCI)を行うことが一般的である。心臓カテーテル設備を有する施設では,door to device time(来院からガイドワイヤー病変通過までの時間)は60~90分が目標であり,日頃から院内外の救急体制を確立しておくことが重要である。なお,発症3時間以内でかつ診断から2時間以内にprimary PCIができない場合には,血栓溶解療法も考慮する。
発症早期にPCIなど再灌流療法を施行したにもかかわらず,時間経過とともに心不全,ショック,不整脈,梗塞後狭心症などが増悪することがあり,心臓集中治療室(coronary care unit:CCU)で管理する。入院中の管理の詳細は他書を参照されたい。
退院後は,身体機能や精神的・社会的健康を維持改善する目的で,運動プログラムに沿ったリハビリテーションを行う。理想体重は18.5≦BMI<25で,血圧コントロールや禁煙,糖尿病の管理を確実に行う。わが国のST上昇型心筋梗塞患者では,発症31日以降3年以内に19.8%に心血管イベントが発生したという報告がある。このため,抗血栓療法,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン阻害薬投与,脂質異常代謝改善薬投与など,有効性が実証された薬物介入の至適薬物療法(optimal medical therapy:OMT)が重要である。
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン阻害薬は,左室リモデリングや再虚血イベントを抑制するが,特に低心機能低下例で有効である。脂質異常代謝改善薬は抗炎症効果もあり,LDLコレステロール値にかかわらず投与するが,最大量を投与してもLDLコレステロール値70mg/dL以下を達成できない場合には,LDL吸収阻害薬またはPCSK9阻害薬投与を考慮する。
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