日本循環器学会と日本心不全学会は合同ガイドライン「2021年JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」において、心不全分類を一部改訂した。'17年版ガイドラインでは初期評価時の左室駆出率(EF)による3分類(HFrEF、HFpEF、HFmrEF)と、経過観察時EFを基準としたHFrecEF(EFが改善した心不全)が並列されていたが、改訂版では上記の初期評価時3分類と、経時的変化に基づく3分類(HFrecEF、EFworEF[EF増悪]、HFuncEF[EF不変])に切り分けられた。
その上でHFrecEFには非虚血性が多いという認識のもと、拡張型心筋症HFrecEF例に対する治療薬(ループ利尿薬、アルドステロン拮抗薬、β遮断薬、ACE阻害薬/ARB)中止が心不全増悪を来したとするランダム化比較試験(RCT)"TRED-HF"を挙げ、「HFrecEFの病態は疾患が治り投薬が不要となることを意味しているわけではない」と説いている。
では心筋梗塞後のHFrecEFではどうだろう? そのような観点から興味深い研究が3月2日、Sci Rep誌に掲載された。Seung Hun Lee氏(全南大学校、韓国)らによる観察研究を紹介する。
解析対象は心筋梗塞例全国連続登録レジストリ"KAMIR-NIH"中、登録時EF「<50%」から1年以内に「≧50%」へ回復した726例である(全体の5.5%)。
これらを登録1年後もレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAAS-i)継続群(544例)と1年後RAAS-i中止群(108例)、そして当初からRAAS-i非服用群(74例)の3群に分け、登録から36カ月間の転帰を比較した。
その結果、RAAS-i「中止」群における「死亡・心筋梗塞再発・心不全入院」発生率は11.4%で、5.4%の「継続」群に比べ補正後ハザード比は2.1の有意高値となったものの(95%信頼区間:1.02-4.28)、「非服用」群(発生率12.1%)とは有意差を認めなかった。
この結果は、傾向スコアでマッチした比較でも同様だった。
「中止」群イベント中最多だったのは「死亡」の7.0%、ついで「心不全入院」の5.5%だった(「継続」群ではそれぞれ2.3%と2.8%)。
なお観察期間終了時のEF平均値は「継続」群:56.0%、「中止」群:55.3%、「非服用」群:52.8%で有意差はなかった。
一方、NT-proBNP値は「非服用」群が最も高く、次いで「中止」群だった(3群間の差はP=0.009)。
「左室収縮能回復そのものを心不全改善と捉えるべきではない」とLee氏らは考察している。
本研究は韓国疾病管理予防センターから資金提供を受けた。