肩関節は人体の中で最も脱臼しやすい関節である。ひとたび脱臼すると,反復性に移行しやすい。脱臼によって肩関節前方の靱帯が剝離(Bankart損傷:関節唇-下関節上腕靱帯複合体の剝離)するからである。脱臼を整復した後の治療は,初回脱臼と反復性脱臼では異なる。初回脱臼患者には3つの治療方法を提示し,患者に選択してもらう。反復性脱臼患者の場合,根治的治療は手術となる。
単純X線を撮影すれば脱臼の診断は容易である。90%以上は前方脱臼であり,後方脱臼は少ない。時に関節窩や大結節の骨折を合併するので,整復後も必ず単純X線をチェックする必要がある。約20~30%の患者に腋窩神経麻痺を合併するので,腋窩神経麻痺の有無の確認も必要である。肩関節は脱臼すると,約90%の患者で,関節窩骨欠損や骨頭の陥没骨折(Hill-Sachs損傷)を合併する。正確な評価にはCT検査が有用である。
脱臼を整復した後の治療は,初回脱臼と反復性脱臼では異なる1)。三角巾固定などの内旋固定では,60~80%と高い再脱臼(特に10歳代,20歳代)が報告されている。しかし,外旋固定を行えば,再脱臼を半分に減らすことができることがわかっている2)。初回脱臼であれば,外旋固定でBankart損傷の治癒が期待できる。
一方,反復性脱臼ではこの外旋固定は有用ではなく,根治治療としては手術が必要になる。手術を行えば,再脱臼は最も少なく抑えることができるが,初回脱臼のすべての患者が反復性に移行するわけではないので,初回脱臼に対する手術は限定すべきである。シーズン中の選手であれば脱臼予防装具を装着し,一時的に脱臼を予防する方法もある。
したがって初回脱臼患者の場合,これら3つの治療方法(外旋固定,脱臼予防装具,手術)を提示し,患者の希望する方法を選択するのがよい。
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