長崎大とキリンホールディングスは4月28日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の軽症患者が「プラズマ乳酸菌」を摂取した場合の効果などを検証した特定臨床研究(PLATEAU STUDY)の成果発表会を都内で開いた。研究を担当した長崎大の山本和子客員教授(琉球大院感染症・呼吸器・消化器内科学講座教授)は、主要評価項目の「自覚症状の総スコア」では効果が認められなかったものの「ウイルス量の減少を早める効果」や「味覚・嗅覚障害の消失を早める効果」は確認されたとし、「本研究成果は、新型コロナウイルスを取り巻く課題の解決への一助になるのではないか」との見解を示した。
プラズマ乳酸菌(L. lactis strain Plasma)は、「ウイルス感染防御を担う免疫系の司令塔」とされるpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)を活性化する乳酸菌で、キリンが2010年に発見した。これまでにインフルエンザウイルス、ロタウイルス、デングウイルスなど各種ウイルスに対する臨床・非臨床の研究成果が報告されてきたが、実際にウイルス感染した患者に投与する研究は、今回のPLATEAU STUDYが初めてとなる。
PLATEAU STUDYは、長崎大病院を核とした多施設共同試験として実施。参加に同意した20歳以上65歳未満の軽症COVID-19患者100名をランダムに割り付け、二重盲検で50名にプラズマ乳酸菌(4000億個/日)含有カプセル、50名にプラセボカプセルを14日間摂取してもらい、有効性・安全性を検証した。
症例登録は2022年1月から開始、オミクロン株BA.1流行期間中に100症例の組み入れを完了した。
解析結果によると、「咳」「呼吸困難感」「倦怠感」「頭痛」「嗅覚・味覚障害」「食欲不振」「胸部痛」の7つの自覚症状総スコアの変化量ではプラズマ乳酸菌群とプラセボ群に差は認められず、主要評価項目は達成できなかった。
一方、副次評価項目の味覚・嗅覚障害が消失した患者の割合は、9日目以降にプラズマ乳酸菌群で明らかに高くなることが確認。新型コロナウイルス量もプラズマ乳酸菌群の方が早期に減少することが分かった。
研究成果を発表した山本氏は、プラセボ群では経過中に血中pDCが減少したのに対し、プラズマ乳酸菌群ではpDCが維持されていたことから、「プラズマ乳酸菌カプセルを内服するとpDCが維持され、それがウイルスの排出を早めてくれて、(味覚・嗅覚障害などの)症状の改善につながる」との仮説を示した。
自覚症状の総スコアで差が出なかったことについては「研究を計画したのがオミクロン前で、鼻水・鼻づまり、喉の痛みなどのオミクロン株に特徴的な症状を入れていなかったことが原因かもしれない」とコメントした。
山本氏は、COVID-19が5月8日より感染症法上の5類に移行することで「軽症患者に対しては、より手軽に求めやすい治療や補助療法が必要になる」とし、医薬品としてのプラズマ乳酸菌の製品化に期待を示した。
長崎大とキリンはPLATEAU STUDYで得られた成果について共同で特許出願をしており、キリンは今後、製品化に向けた検討を進める意向だ。
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「乳酸菌L.ラクティス プラズマ(プラズマ乳酸菌)」を用いた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する特定臨床研究成果を発表(長崎大学病院)
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