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一過性脳虚血発作(TIA)[私の治療]

No.5170 (2023年05月27日発行) P.45

上坂義和 (虎の門病院脳神経内科部長/脳卒中センター長)

登録日: 2023-05-27

最終更新日: 2023-05-23

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  • わが国における一過性脳虚血発作(transient ischemic attack:TIA)の定義は「局所脳または網膜の虚血に起因する神経機能障害の一過性エピソードであり,急性梗塞の所見がないもの。神経機能障害のエピソードは,長くとも24時間以内に消失すること」1)である。しかし,24時間経過をみて診断するのではなく,「TIAを疑えば,可及的速やかに発症機序を評価し,脳梗塞発症予防のための治療を直ちに開始する」2)ことが重要である。

    ▶診断のポイント

    持続は短時間であるが,基本的には脳梗塞と同様の巣症状を呈する。構語障害,四肢顔面の一側性麻痺・巧緻運動障害,一側性感覚障害,失語,半盲などが多い。稀ではあるが,一側体肢の「ふるえ」を一過性に呈するlimb shaking/shaking TIAがあり,そのうちのほとんどの症例で対側内頸動脈・中大脳動脈近位部の高度狭窄を伴うため,臨床的に重要な症候である。

    よく間違われるが,巣症状を伴わない一過性意識障害はTIAではない。前下小脳動脈(AICA)より内耳動脈が分枝するため,AICA虚血により突発性難聴様の症状を呈することがあるが,回転性めまいのみの場合はTIAではない。また,症状が複視のみの場合,内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤は除外すべきであるが,TIAではない。閃輝暗点がTIAであることは皆無ではないが稀である。

    鑑別診断として頻度が高いものに低血糖,片頭痛,てんかんがある。低血糖では片麻痺を呈することもあり,頭部MRIで脳梁膨大部や内包,放線冠に拡散強調像で高信号を認め,脳梗塞と誤診されることもある。片頭痛では閃輝暗点を伴わない同名半盲や,稀だが一過性の感覚障害,しびれ感,片麻痺,失語などを呈することもある。片麻痺側を向く共同偏視症例をみた場合,てんかん後のTodd麻痺も考慮する。稀であるが,発作期に四肢の痙攣などが先行せずに, てんかん性機序で片麻痺, 失語, 半側無視などの神経脱落症候を示すこと(inhibitory seizure)もある。inhibitory seizureは高齢者で比較的多く,脳血管障害後の症候性てんかんとしても生じるので,注意が必要である。

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