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【識者の眼】「ACE阻害薬・ARBの添付文書が今さら改訂されたのはなぜ?」稲葉可奈子

No.5172 (2023年06月10日発行) P.59

稲葉可奈子 (公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)

登録日: 2023-05-29

最終更新日: 2023-05-29

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2023年5月9日、ACE阻害薬・ARBの添付文書が改訂されました。何十年も使われている薬の添付文書がなぜこのたび改訂されたのでしょうか。

妊娠中のACE阻害薬・ARBの使用により、胎児の腎不全、頭蓋・肺・腎の形成不全、死亡などの影響があることは広く知られており、妊婦への投与は禁忌となっています。にもかかわらず、ACE阻害薬・ARBによる胎児への影響が疑われる症例が継続的に報告されているのです。

妊婦への投与が禁忌であることを知らない医師はいないと思いますし、今回の改訂もその注意喚起が目的ではありません。

今回の改訂の要点は、

・処方継続中も毎回妊娠していないことを確認
・妊娠を計画する場合は担当医に相談するように患者さんへ繰り返し説明

という点で、妊娠していると知らずに内服を続けてしまうケースを防ぐことが目的です。

「当然、毎回確認しています」という先生もいらっしゃるとは思いますが、広く使用される薬だからこそ、一部の高尚な先生だけが実行していればよいのでなく、日本全国の妊娠可能年齢の女性に処方する場合に確認がされる必要があります。

ところが、必要性は理解していても、妊娠の有無を毎回確認することでセクハラと言われるのではないかと懸念されたり、前に説明したからと毎回は確認しない、ということが珍しくはなく、だからこそACE阻害薬・ARBの胎児への影響が報告され続けているのです。

今回添付文書に「処方中も確認すること」と明記されたことにより、確認する側がセクハラと受け取られるリスクなどから守られることになりますし、薬局で薬剤師さんが確認しやすくなります。お酒やタバコを販売する際に「20歳以上ですか」と毎回確認するのと同じ意識でご確認頂きたく、それが先天異常を防ぐことにつながります。

なお「妊娠可能年齢」は、月経がきていれば妊娠はありえますので、10代だから40代だから未婚だからと油断されませぬよう、よろしくお願い致します。

逆に、患者さんの中には「内服しているから妊娠してはいけない」と思い込んでいることもあります。病態が許せば「服薬調整により妊活可能である、ただし事前に相談を」という情報提供も定期的にお伝え頂きたく存じます。これに限らず、妊娠と服薬について懸念などありましたら、産婦人科と随時連携して頂けますと幸いです。

【参考】

▶医薬品医療機器総合機構:PMDAからの医薬品適正使用のお願い No.10. 2023年5月.
https://www.pmda.go.jp/files/000252410.pdf?fbclid=IwAR3d7L5iHoZ0JNcxLX6M6GHNaSewfjJ5cb3JHTL6-AOWNZgRH-hJWYYhaMY

稲葉可奈子(公立学校共済組合関東中央病院産婦人科医長)[妊娠の確認]

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