従来の健康保険証を2024年秋に廃止し、保険証として利用できるマイナンバーカード(マイナ保険証)に一本化することなどを盛り込んだマイナンバー関連法改正案の国会審議が大詰めを迎える中、別人の資格情報が誤って登録されるなど、マイナ保険証によるオンライン資格確認を巡るトラブルが全国で相次いでいる。事態を重く見た厚生労働省は5月23日付の通知で、全保険者に対し登録データの点検を要請。医療関係団体からは保険証廃止撤回を求める声が強まっている。
今国会に提出されたマイナンバー関連法改正案は4月27日に衆院を通過。現在、参院の特別委員会で審議が進められており、近く採決が行われる見通しとなっている。
改正案が可決・成立すれば、従来の健康保険証は2024年秋に廃止され、医療機関・薬局での患者の資格情報(加入している医療保険や自己負担限度額など)の確認は、マイナ保険証によるオンライン資格確認に一本化される。
このシステムを整備するため、政府は保険医療機関・薬局に対し、経過措置を設けつつオンライン資格確認の導入を今年4月から義務づけた。保険医療機関・薬局の参加率は5月21日現在73.8%(病院85.6%、医科診療所67.9%、歯科診療所66.1%、薬局89.5%)となっている。
厚生労働省は、医療機関がオンライン資格確認を導入し、マイナ保険証による資格確認ができるようになることのメリットについて「期限切れの保険証による受診で発生する過誤請求や、手入力による手間による事務コストが削減できる」「患者の特定健診等の情報や診療情報・薬剤情報を閲覧できるようになる」などと説明(図1参照)。未導入の医療機関に対し顔認証付きカードリーダーの早期申込などを促している。
しかし、医療機関がオンライン資格確認のメリットを実感する前に、システムへの信頼を損ないかねないトラブルが全国で発生する事態となった。
加藤勝信厚労相は5月12日の記者会見で、マイナ保険証に別人の資格情報が紐付けられた事案が生じていることを認め、その後さらに同様の報告が相次いだことから23日の会見で遺憾の意を表明した。
加藤厚労相はトラブル発生の原因について「事業主からの資格取得届に個人番号の記載がないものがあり、保険者で加入者の個人番号を取得する際に、漢字氏名や住所を確認せずに取得するなど本来の事務処理とは異なる方法で行ったことによるもの」と説明。
その上で、厚労省として①全保険者に対し、基本的な留意事項とは異なる方法で個人番号を取得・登録したケースがないか点検するよう要請、②オンライン資格確認システムに登録されているデータ全体について住民基本台帳情報と照合し5情報(漢字氏名、カナ氏名、生年月日、性別、住所)の一致状況を確認─の2つの対策を講じるとした。
厚労省は23日付の通知で、全保険者に対し登録データの点検を要請。7月末までに点検・修正作業を終え、結果を報告するよう求めた。
マイナ保険証を巡りトラブルが相次いでいる状況に対し医療団体からも様々な声が上がっている。
日本医師会の松本吉郎会長は5月24日の定例会見で、「マイナ保険証によるオンライン資格確認は、言うまでもなく正確なデータ登録がされていることが大前提。国民や患者、医療機関に安心して利用していただくためには、その信頼性を高めていくことが最も重要」と述べ、国・保険者、システムの運営主体である支払基金などに対しデータの正確性確保に向けた取り組み強化を求める考えを示した。
一方、オンライン資格確認義務化に反対してきた全国保険医団体連合会(保団連)は5月23日、9都府県の保険医協会が実施した実態調査を基に「オンライン資格確認を巡っては『明らかに有効な保険証が無効と返信される』などシステムトラブルが医療機関の半数以上で常態化している」と指摘し、健康保険証廃止を盛り込んだマイナンバー関連法改正案の廃案を強く求める声明を発表した。
保団連が公表している各保険医協会の調査結果によると、オンライン資格確認を運用している医療機関の半数超(5月24日現在52%)で何らかのトラブルが発生しており、埼玉県保険医協会の調査では72%もの開業医会員が「トラブルがあった」と回答している(図2)。
埼玉県保険医協会の調査からトラブルの主な内容を見ると、トラブルありと回答した開業医の29%が「誤った表示(氏名、負担割合、資格情報)」を経験。「患者情報が表示されない・資格無効」は53%が経験している。
マイナンバーカードを巡ってはコンビニでの証明書交付サービスの誤発行、公金受取口座の誤登録などの事案も発生しており、トラブルの全容解明と対策の強化が急務となっている。関連法改正案に対し慎重審議を求める声はますます強まりそうだ。
【関連情報】
厚生労働省「オンライン資格確認の導入」専用ページ(医療機関・薬局、システムベンダ向け)
各保険医協会の調査結果(全国保険医団体連合会)
【関連記事】
オンライン資格確認、半数超の施設が「トラブルあり」─保団連が調査結果公表
【読者アンケート結果】義務化は「不当」48%(3月テーマ:オンライン資格確認義務化の妥当性)